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A型事業所は、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の雇用の場となるべきではないか

●CRPD(障害者権利条約)で示される「合理的配慮」とは何か?

 

先日、「就労継続支援事業『A型』と『B型』のちがいについて」の記事の最後に次のようなことを書かせていただきました。

 

本来は、障害のある人もない人も、働く意欲と能力のある人は、一般の企業等で働けることが理想的です。ただ、現実的には、働く意欲のある障害のある人全てが、自分の希望する職に就くことは難しく、また、折角、職に就いても、周囲の理解や配慮(合理的配慮)が足りず、就労を継続することが困難になってしまうことが多々あります。

 

 突然、文中にでてきた「合理的配慮」という言葉に、戸惑われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

 「合理的配慮=Reasonable Accommodation」という言葉は、障害のある人の尊厳と権利を保障するための条約であるCRPD(障害者権利条約)の根幹をなす考え方です。

 

 CRPDの第2条では、「合理的配慮」について、次のように定義しています。

 

 「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

 

 なんとなく、わかったような、わからないような定義ですが、日本障害フォーラム幹事会議長で日本障害者協議会(JD)常務理事でもある藤井克徳さんは、「合理的配慮」とは、障害のある人が障害のない人と同等の立場に立つための「支え」や「補い」である、と易しく説明してくださっています。

 

 CRPDでは、この「合理的配慮」という言葉が、第2条の他に、第5条、第14条、第24条、第27条で登場します。第27条は、すでにご承知のとおり、労働及び雇用について書かれた条文です。

 

 第27条の第1項では、労働と雇用に関わる障害者の権利保障の課題として、11の具体的課題を列挙していますが、9番目に、「職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること」とあります。

 

 CRPDの批准に向け、関連する国内法を整備する中、平成25626日に公布され、平成2841日から施行される「障害者差別解消法(正式名称は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)では、この「合理的配慮」がキーワードになっています。

 

 「障害者差別解消法」は、国の行政機関や地方公共団体等及び民間事業者による「障害を理由とする差別」を禁止することを目的としていますが、「障害を理由とする差別」について次のように謳っています。

 

 「障害を理由とする差別」とは、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為をいいます。また、障害のある方から何らかの配慮を求める意思の表明(知的障害等により、本人自らの意思を表明することが困難な場合には、その家族などが本人を補佐して意思の表明をすることができる)があった場合には、負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮(以下、「合理的配慮」)をおこなうことが求められます。こうした配慮をおこなわないことで、障害のある方の権利利益が侵害される場合も、差別にあたります。(「障害者差別解消法」パンフレットより)

 

 「合理的配慮」の具体的な例については、今後、国の「基本方針」や行政機関ごとの「対応要領」や「対応指針」が示される中で、さらに明らかになると思われますが、大切なことは、「合理的配慮」をおこなう責任は、社会の側にあり、差別には、直接的・間接的な差別だけではなく、この「合理的配慮」を怠ることも差別に含まれるということです。

 

 法律では、障害者への「合理的配慮」の提供は、国の行政機関や地方公共団体等に対しては、「法的義務」として位置づけられ、民間事業者に対しては、「努力義務」となっています。

 

 就労継続支援事業A型の担うべき役割を考えるキーワードとして、この「合理的配慮」という考え方を、まず押さえておいてください。

 

●「雇用か福祉か」の二分モデルから、「雇用も福祉も」の対角線モデル

 

 就労継続支援事業A型が、障害者総合支援法に基づく現行の障害福祉サービスの中で、唯一、労働法規の適用を受ける事業であることは既に触れたとおりです。

 

 障害者自立支援法施行以前、というよりもCRPD(「障害者権利条約」)以前の、日本の障害者就労支援施策は、福祉の施策と雇用の施策で、スパッと真っ二つに切り分けられていました。「合理的配慮」について易しい解説をしてくださった藤井さんは、これを二元モデル(二分法モデル)と呼び、下図のようにイメージ化しています。

 

 これまで、よく言われたことは、障害のある人が学校を卒業する際、最初にどこの窓口に相談に行ったかで、その後の進路がずっと決まってしまうということです。具体的には、最初にハローワークに相談に行った人は、一般就労。最初に福祉事務所などの福祉の窓口に相談に行った人は、作業所などの福祉的就労。一般就労と福祉的就労の間には、厚い、高い壁があって、一度、福祉的就労に行った人が、一般就労に行くことのできる可能性は殆ど皆無。(実際に、自立支援法以前の授産施設から、一般就労に移行する人の割合は、1%にも満たない状況でした)また、一般就労した人は逆に福祉のサービスを利用しにくいといった状況がありました。(今も、やはり、その状況は続いているように思えますが)

 

 藤井さんは、こうした状況を「二分モデル」と批判したうえで、あるべき施策のあり方として、「対角線モデル」という形を提案されています。「雇用か福祉か」という二者択一を迫る「二分モデル」から、「雇用も福祉も」と、状況に応じてサービスを選択できる「対角線モデル」への転換こそが、あるべき障害者就労支援施策であるという考え方です。

 

 従来の「二分モデル」では、本人の障害が重いか軽いかということが重視される、いわば、働くことが困難な原因を、個人の機能障害に求める(障害の)医学モデル(個人モデル)に基づくものでした。

 これに対して、「対角線モデル」では、働くことが困難となっている原因は、個人の機能障害ではなく、社会や本人を取り巻く環境にあるということを重視した、(障害の)社会モデルに基づくものとなっています。すなわち、障害の重い軽いについては、個人の機能障害ではなく、働く上で障害がどのように影響するかを着目した上で、障害の影響が少ない場合は、雇用施策の割合が大きく福祉施策の必要度は小さいが、影響が大きくなるにつれて、その割合が逆転していくというものになっています。

 さらに、藤井さんは、社会福祉施策は、=CRPDで定義される「合理的配慮」の施策であるといった考え方も示されています。

 

2015062001


 

●就労継続支援事業A型は、「合理的配慮」が標準装備された障害者の就労・雇用の場

 

 就労継続支援A型事業所の担うべき役割、果たすべき役割を考えるときに、藤井さんが示された、この「対角線モデル」は、非常に有効であると思っています。

 

 結論を先に述べてしまうと、就労継続支援A型事業所は、今後、障害のある人が働く上で、もっとも重要なキーワードになる「合理的配慮」が標準装備された「就労の場」「雇用の場」であることをめざすべきではないかと考えます。

 

 あるべき就労支援策を示す対角線モデルの枠組みをなす四角形を1つのA型事業所として考えてみることにします。1つのA型事業所には、障害のある人とない人が共に働いています。労働障害の重い人(=働く上で、本人の機能障害が大きく影響する人)から労働障害の軽い人(=働く上で、本人の機能障害の影響が小さい人)まで、様々な人が事業所で働いています。労働障害の重い人に必要な「合理的配慮」をおこなうことで、今、利用している人よりも、もっと労働障害の重い人(ひいては機能障害の重い人)の受け入れを図っていくこともきっと可能になるはずです。四角形の上辺(四角形の高さ)が、現在の事業所のディーセント・ワークの到達点です。労働障害の重い人には、合理的配慮を手厚くすることで、労働障害の軽い人には、その人に応じた適度な合理的配慮をおこなうことで、目標とするディーセント・ワークに近づけることが可能になります。各事業所がめざすことは、ディーセント・ワークの達成度を高めていくこと、すなわち、上辺をさらに上に引き上げる(高さを高くしていく)ことです。

 「合理的配慮」をおこなうためには、それなりのコストが発生します。しかし、このコストは、合理的配慮が事業所内に浸透し、経験が蓄積されていく中で、やがて軽減化を図っていくことができるものです。また、ディーセント・ワークの達成度が上がることで、障害のある人が納税者になる可能性も広がっていきます。

 

 「合理的配慮」の義務は、民間事業者は現時点では「努力義務」にとどまっています。その理由は、必要な「合理的配慮」をおこなうためには、一定の(初期の段階ではそれなりに多額の)コストが発生するからに他なりません。A型事業者には、報酬というかたちで、公費が注がれています。この公費の正しい使途こそが、「合理的配慮」をおこなうためのコストではないかと思っています。

 

 就労継続支援A型事業所を、「合理的配慮」が努力義務としてではなく「標準装備された」障害者の就労・雇用の場として、明確に位置付け、各事業者が弛まぬ努力で、ディーセント・ワークの達成度を高めていくことをめざすことこそが、「悪しきA型」を失くし、「良きA型モデル」を育てていく道につながるものと考えます。

 

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