« 就労継続支援「A型」と「B型」のちがいは? | トップページ | A型事業所は、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の雇用の場となるべきではないか »

就労継続支援A型事業所を取り巻く現状と課題  「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」での問題提起(予定原稿)から

6月25日、26日の2日間、横浜市で、

神奈川県中小企業家同友会の主催による

「障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」が開催されます。

すでに北海道から沖縄まで130名を超える方から

参加のお申し込みを受けています。

私は、1日目に、実行委員会を代表するかたちで、

問題提起をさせていただき、

2日目は、パネリストの一人として、

パネルディスカッションに参加させていただくことになっています。

以下は、1日目の問題提起の予定原稿です。

限られた短い時間なので、

制度の概要等については、細かくは触れていません。

(「A型」と「B型」の違いや、「ディーセント・ワーク」の

詳しい説明については、過去の記事をご覧ください)

また、あくまでも「問題提起」なので、

今後、めざすべき方向性は、

2日間に渡るグループ討議の中で、

参加者全員で考えていくことになります。

 

中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム

◆問題提起:「良きA型モデル」を築くために、 同友会加盟のA型事業所がめざすべき方向性

報告者:天野 貴彦(東京同友会)

 

◇はじめに

 

本日は、お忙しい中、「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」に、ご参加をいただき、誠にありがとうございます。

本フォーラムは、A型事業所を経営する同友会会員が増えていること、その一方で、これまで、横のつながりや交流もあまりなく、自主的努力での運営を余儀なくされているという現状を踏まえ、会員相互の経験の交流や意見の交換を積極的におこなうことで、中小企業家同友会としてA型事業所経営にとりくむ「あるべき姿」を明らかにしていくことを目的に開催するものです。

今日、明日の2日間に渡る分科会、パネルディスカッション、グループ討議といったプログラムの中で、交流が深まり、熱のこもった活発な議論が展開されることを期待します。

それでは、これより、主催者を代表しまして、「『良きA型モデル』を築くために、同友会加盟のA型事業所がめざすべき方向性」と題しまして、問題提起をさせていただきます。

 

 

◇A型事業所の飛躍的増加と企業の経営参加

 

先の行政報告で厚労省の鈴木課長補佐より、「障害福祉施策の動向」として、ご報告を受けましたので、就労継続支援A型事業所の細かな法的根拠や制度概要については割愛させていただきます。

 さて、平成1810月に、障害者自立支援法による新体系がスタートしてから8年半、この間、A型事業所を取り巻く現状は大きく変化してきています。

1は、事業所数と利用者数の飛躍的な伸びです。


 事業所数では、平成
19年度の148ヶ所から、平成274月には、2,707ヶ所と18倍に、利用者数では、平成19年度の3,445人から、平成274月には約48,000人と14倍の伸びを示しています。


 事業所数や利用者数では、B型事業所の現状には大きく及びませんが、伸び率だけを見ると、就労系事業所と呼ばれる就労継続支援A型、B型、就労移行支援事業の中で一番となっています。

2は、経営主体の変化です。


 A型事業所の経営主体を社会福祉法人、NPO法人、企業、その他に分けてみると、新体系スタート当初は、社福が一番でしたが、現在では、社福、NPOを押さえて、企業が経営主体のトップになっています。


 中小企業家同友会でも、全国で、おそらく
200300の会員によるA型事業所があるのではないでしょうか。


 A型事業所は、利用者となる障害のある人と雇用契約を結びます。利用者の労働の対価として、地域最低賃金を支給することが原則となるため、就労支援事業を実施する中でその原資となる売上をきちんと上げていくことが重要な経営課題となります。本来は、企業の経営センスと社福やNPOの福祉理念がかみあうことで好循環が期待される制度設計となっています。

 

 

◇「悪しきA型」問題の発生とその実態

 

 A型事業所の数とそこで働く障害のある人が急激に増加し、企業の経営参加が広がる状況の中で、第3の変化として、「悪しきA型」という問題がクローズアップされるようになりました。

 昨年(平成26年)612日、NHKニュース(「ニュース9」)は、全国における給付金の不正受給の問題に絡めて、A型事業の悪用という問題があることを取り上げました。ここでいう「悪しきA型」とは、平成22年(2010年)頃から愛知県で始まったものが悪質なコンサルタント会社によって全国に波及したものであるといわれています。

 「悪しきA型」と呼ばれる事業所では、短時間雇用で、とても収益が上がるとは考えられない簡単で、満足感や達成感の持てない作業(仕事)しかさせなかったり、報酬や助成金の一部から給料を支払ったり(法的規制を免れるため、内部作業の内部委託などで取り繕う手口など)、不十分な職員配置や施設環境で経費をできるだけ切り詰め、金を浮かして儲けようとしたり、助成金(特開金)が切れる時期に、手間のかかる障害者や文句を言う障害者を追い詰め、退職に至らしめるといった様々な問題が発生しています。

 こうした「悪しきA型事業所」に対して、行政(厚労省)は規制を強化する対応策を打ち出しました。平成2410月から短時間利用者減算の制度が実施され、今年(平成27年)10月からは、更に規制が強化されることになっています。

 しかしながら、規制強化という対応策は、制度の設計者自身がその不備や矛盾を認めたことに他ならず、いくら規制を強化しても、本当に「悪しきA型事業者」は、また新たに規制を逃れるための手口を生みだすという「いたちごっこ」になりかねません。

 さらに最悪の場合は、「悪しきA型事業者」が事業そのものを投げ出し、利用者である障害者の働く場を奪ってしまうという事態にもなりかねません。そのため、制度(新体系)がスタートしてから、まもなく10年の節目を迎えるにあたって、抜本的な制度の改正を検討していくことが必要ではないかと考えられます。

 

 

◇「悪しきA型」とは呼ばせない。排除の論理からは、何も生まれない

 

「企業がA型事業の経営に参入したこと」が、「悪しきA型」を生みだした主因であるといった指摘もありますが、これはまったくの的外れであり、私たちはとても承服することはできません。

先程、中小企業家同友会の会員が経営するA型事業所が大きく増えていることに触れましたが、私たちの仲間である会員事業所を見渡してみた時に、「悪しきA型事業所(者)」という言葉は、まったく当てはまりません。

「良い会社をつくろう」「良い経営者になろう」「良い経営環境をつくろう」という同友会の理念のもとに、社会全般で遅々として進まない障害者雇用の問題を解決していくひとつの術として、制度を良心的に活用して、真摯にA型事業所の経営にとりくんでいるというのが実際です。

大企業には、障害者雇用に関して、特例子会社という制度がありますが、中小企業が特例子会社を設立するのには高いハードルがあります。たとえ、中小企業であってもできる、障害者雇用、社会貢献として、誇りを持って、A型事業所の経営にとりくんでいるのです。

「悪しきA型」という悪意に満ちた言葉は、時として、仲間同士にいらぬ軋轢や疑心暗鬼をもたらす危険性も秘めています。各県の同友会の議論の中でも、企業がA型事業所を経営することへの批判的な意見や、「もし、『悪しきA型事業者』が同友会に入会を申請したら、どうずる?」といった不安が出されたことも聞いています。しかし、そうした議論の中で、このような素晴らしい意見があったことを紹介しておきます。

「もし、『悪しきA型事業所』と呼ばれる事業者が、同友会に入会したいと言ってきたら、私たちはその事業者を喜んで迎えよう。私たちが、私たちの力で、その事業者を『悪しき』から『良き』に変えていけばよいのだから」

「悪しきA型」と、他を批判したり、排除することは簡単です。しかし、批判や排除の論理からは何も生まれません。私たちが今、問われていることは、自分たちが何を理想とし、何をどうしていくかということです。

本フォーラムでは、「悪しきA型」を失くし、「良きA型モデル」を築き上げていくために、私たちがどうとりくむべきかについて、みんなで話し合い、考えていきたいと思います。

 

 

◇「良きA型モデル」のキーワードは「ディーセント・ワーク」

 

「悪しきA型」に対抗する「良きA型モデル」とは、果たしてどんなモデルか?

私たちは、それは「障害のある人が、労働者としての権利を保障され、働くことを通して、幸福を実現していくモデル」であると考えます。

「良きA型モデル」を築き上げていくためのキーワードとして、「ディーセント・ワーク」という言葉をここで挙げさせていただきます。

「ディーセント・ワーク」という言葉を、今はじめて耳にされたという方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、「ディーセント・ワーク」という言葉は、まだそれほど社会全体に広く浸透していません。

「ディーセント・ワーク」は、ILO(国際労働機関)が、1999年の第87回総会に提出した理念です。今日、世界中で進んでいる格差と貧困、そして様々な権利侵害に対抗して、21世紀の全世界全労働者のための世界的目標として「すべての労働者にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事・誇りある労働)を」と掲げたものです。

「ディーセント・ワーク」自体は、障害のある人に特化した目標ではなく、すべての労働者を対象とするものですが、とりわけ、「ディーセント・ワーク」とは程遠い状況におかれている障害のある人のために、国連での障害者権利条約の採択を受けて、2007123日の国際障害者デーに、「ディーセント・ワークへの障害者の権利」が発表されています。今日は、詳しい説明をする時間がありませんが、これらはILOや国連のホームページで閲覧することができますから、機会のあるときに、ぜひ、お読みになってください。

また、高知県同友会では、各県にある障害者委員会と同等の組織に対して、「ディーセント・ワーク委員会」という呼称を使われています。非常に先駆的であり、まさに、このフォーラムに相応しいものであると思います。高知県同友会の方は、グループ討論の中で、ぜひ、そのことについても触れていただけますよう、壇上から特にお願いいたします。

私たちが、今後「良きA型モデル」を築き上げ、政策提言していくためには、現在、私たちが実施しているA型事業の現況をこの「ディーセント・ワーク」の視点から客観的に評価していくことが必要であると考えます。

また、評価を実施するためには、基準となる尺度を示す指標づくりが求められます。フォーラム実行委員会では、今回のフォーラム開催に合わせて、「A型事業所のディーセント・ワーク達成度評価表」という指標を試験的に作成しました。まだ不十分な箇所が多々あるとは思いますが、ご意見をいただき、修正・改良を加えたところで、調査活動を実施することができればと考えております。皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 

◇「公益性」と「非営利性」を貫き、連帯と協同を築くための議論を

 

「悪しきA型」問題の本質は、本来、障害福祉サービスに求められる事業の「公益性」と「非営利性」が蔑にされ、障害のある人の働く場を「ディーセント・ワーク」から遠ざけてしまっていることです。

 私たちは、自らが実施しているA型事業の「公益性」と「非営利性」を自ら明らかにする必要があります。A型事業の経営が、中小企業としておこなう社会貢献活動の一環であるという位置付けが明確になされていることが大切であると考えます。

 私たちのA型事業所を「良きA型」とし、国や自治体に対して、更なる制度の改善や拡充を求め、政策提言をおこなっていくためには、連帯と協同が不可欠です。

今年2月には、企業、社福、NPOといった経営主体の種別を超え、互いの英知を集め、情報を共有し、刺激し合い、融合を図ることで、障害のある人の働くよろこびをつくりあげていくことを目的に、全Aネット(NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会)が設立されました。

今日の第3分科会で報告をしてくださる久保寺さんが、全Aネットの代表を務めていらっしゃり、同友会の会員事業所も多数、参画しています。こうした志を一つとする団体との協同を深めていくことが大切です。また、今回のフォーラムを一回限りのもとせず、継続的に開催し、交流と経験を蓄積していくことが重要です。

 「悪しきA型」という言葉をこの世から消し去り、障害のある人のディーセント・ワークを実現する「良きA型」を築き上げていくために、活発な議論が展開されることを強く期待して、問題提起を終えます。ご清聴ありがとうございました。

(以上、予定原稿)

 次回は、2日目のパネルディスカッションンでお話ししようと思っていることをまとめてみようと思います。

|

« 就労継続支援「A型」と「B型」のちがいは? | トップページ | A型事業所は、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の雇用の場となるべきではないか »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/169359/60428334

この記事へのトラックバック一覧です: 就労継続支援A型事業所を取り巻く現状と課題  「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」での問題提起(予定原稿)から:

« 就労継続支援「A型」と「B型」のちがいは? | トップページ | A型事業所は、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の雇用の場となるべきではないか »