« 2015年5月 | トップページ | 2015年7月 »

2015年6月

「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」のまとめ版です。とても長いので、必要な部分のみお読みください。

 6月25日、26日に横浜で開催した

「中小企業家同友会 障害者継続支援A型事業者全国フォーラム」は、

全国から150名もの参加者が集い、大盛況のうちに幕を閉じることができました。

 神奈川新聞さんで、1日目、2日目の様子を紹介していただきました。

ありがとうございます。

 

☆「中小でも障害者雇用を」 横浜でA型事業者フォーラム

 

http://www.kanaloco.jp/article/105030

 

☆障害者雇用推進に決意 中小企業の役割確認 A型事業者フォーラム

 

http://www.kanaloco.jp/article/105299

 

 私は1日目の問題提起と、2日目のパネルディスカッションで発言させていただきました。

 言葉足らずで十分にお伝えすることができなかったことも多々あるかと思います。

 問題提起の予定原稿や、パネルディスカッションでお話しした内容を、この間、

何回かに渡り、ブログの記事としましたが、ひとつずつ記事を呼び出すのも大変だと思い、ひとつにまとめてみました。

 全部、お読みいただくと原稿用紙60枚くらいの分量になりますから、必要なところだけ、飛ばしてお読みになってください。

 なお、フォーラムでお配りした「就労継続支援A型事業所のディーセント・ワーク達成度評価表(同友会テスト版)」のダウンロードファイルは、一番最後にあります。ご自由にご活用いただいて、結構です。

1.就労継続支援A型事業所を取り巻く現状と課題  「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」での問題提起(予定原稿)から(6月18日)

 

625日、26日の2日間、横浜市で、

神奈川県中小企業家同友会の主催による

「障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」が開催されます。

すでに北海道から沖縄まで130名を超える方から

参加のお申し込みを受けています。

私は、1日目に、実行委員会を代表するかたちで、

問題提起をさせていただき、

2日目は、パネリストの一人として、

パネルディスカッションに参加させていただくことになっています。

以下は、1日目の問題提起の予定原稿です。

限られた短い時間なので、

制度の概要等については、細かくは触れていません。

(「A型」と「B型」の違いや、「ディーセント・ワーク」の

詳しい説明については、過去の記事をご覧ください)

また、あくまでも「問題提起」なので、

今後、めざすべき方向性は、

2日間に渡るグループ討議の中で、

参加者全員で考えていくことになります。

中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム

問題提起:「良きA型モデル」を築くために、 同友会加盟のA型事業所がめざすべき方向性

報告者:天野 貴彦(東京同友会)

はじめに

 

本日は、お忙しい中、「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」に、ご参加をいただき、誠にありがとうございます。

本フォーラムは、A型事業所を経営する同友会会員が増えていること、その一方で、これまで、横のつながりや交流もあまりなく、自主的努力での運営を余儀なくされているという現状を踏まえ、会員相互の経験の交流や意見の交換を積極的におこなうことで、中小企業家同友会としてA型事業所経営にとりくむ「あるべき姿」を明らかにしていくことを目的に開催するものです。

今日、明日の2日間に渡る分科会、パネルディスカッション、グループ討議といったプログラムの中で、交流が深まり、熱のこもった活発な議論が展開されることを期待します。

そ れでは、これより、主催者を代表しまして、「『良きA型モデル』を築くために、同友会加盟のA型事業所がめざすべき方向性」と題しまして、問題提起をさせていただきます。

 

 

A型事業所の飛躍的増加と企業の経営参加

 

先の行政報告で厚労省の鈴木課長補佐より、「障害福祉施策の動向」として、ご報告を受けましたので、就労継続支援A型事業所の細かな法的根拠や制度概要については割愛させていただきます。

 さて、平成1810月に、障害者自立支援法による新体系がスタートしてから8年半、この間、A型事業所を取り巻く現状は大きく変化してきています。

 

1は、事業所数と利用者数の飛躍的な伸びです。


 
 事業所数では、平成19年度の148ヶ所から、平成274月には、2,707ヶ所と18倍に、利用者数では、平成19年度の3,445人から、平成274月には約48,000人と14倍の伸びを示しています。


 
 事業所数や利用者数では、B型事業所の現状には大きく及びませんが、伸び率だけを見ると、就労系事業所と呼ばれる就労継続支援A型、B型、就労移行支援事業の中で一番となっています。

2は、経営主体の変化です。


 
 A型事業所の経営主体を社会福祉法人、NPO法人、企業、その他に分けてみると、新体系スタート当初は、社福が一番でしたが、現在では、社福、NPOを押さえて、企業が経営主体のトップになっています。


 
 中小企業家同友会でも、全国で、おそらく200300の会員によるA型事業所があるのではないでしょうか。


 
 A型事業所は、利用者となる障害のある人と雇用契約を結びます。利用者の労働の対価として、地域最低賃金を支給することが原則となるため、就労支援事業を実施する中でその原資となる売上をきちんと上げていくことが重要な経営課題となります。本来は、企業の経営センスと社福やNPOの福祉理念がかみあうことで好循環が期待される制度設計となっています。

 

 

「悪しきA型」問題の発生とその実態

 

 A型事業所の数とそこで働く障害のある人が急激に増加し、企業の経営参加が広がる状況の中で、第3の変化として、「悪しきA型」という問題がクローズアップされるようになりました。

 昨年(平成26年)612日、NHKニュース(「ニュース9」)は、全国における給付金の不正受給の問題に絡めて、A型事業の悪用という問題があることを取り上げました。ここでいう「悪しきA型」とは、平成22年(2010年)頃から愛知県で始まったものが悪質なコンサルタント会社によって全国に波及したものであるといわれています。

 「悪しきA型」と呼ばれる事業所では、短時間雇用で、とても収益が上がるとは考えられない簡単で、満足感や達成感の持てない作業(仕事)しかさせなかったり、報酬や助成金の一部から給料を支払ったり(法的規制を免れるため、内部作業の内部委託などで取り繕う手口など)、不十分な職員配置や施設環境で経費をできるだけ切り詰め、金を浮かして儲けようとしたり、助成金(特開金)が切れる時期に、手間のかかる障害者や文句を言う障害者を追い詰め、退職に至らしめるといった様々な問題が発生しています。

 こうした「悪しきA型事業所」に対して、行政(厚労省)は規制を強化する対応策を打ち出しました。平成2410月から短時間利用者減算の制度が実施され、今年(平成27年)10月からは、更に規制が強化されることになっています。

 しかしながら、規制強化という対応策は、制度の設計者自身がその不備や矛盾を認めたことに他ならず、いくら規制を強化しても、本当に「悪しきA型事業者」は、また新たに規制を逃れるための手口を生みだすという「いたちごっこ」になりかねません。

 さらに最悪の場合は、「悪しきA型事業者」が事業そのものを投げ出し、利用者である障害者の働く場を奪ってしまうという事態にもなりかねません。そのため、制度(新体系)がスタートしてから、まもなく10年の節目を迎えるにあたって、抜本的な制度の改正を検討していくことが必要ではないかと考えられます。

 

 

「悪しきA型」とは呼ばせない。排除の論理からは、何も生まれない

 

「企業がA型事業の経営に参入したこと」が、「悪しきA型」を生みだした主因であるといった指摘もありますが、これはまったくの的外れであり、私たちはとても承服することはできません。

先程、中小企業家同友会の会員が経営するA型事業所が大きく増えていることに触れましたが、私たちの仲間である会員事業所を見渡してみた時に、「悪しきA型事業所(者)」という言葉は、まったく当てはまりません。

「良い会社をつくろう」「良い経営者になろう」「良い経営環境をつくろう」という同友会の理念のもとに、社会全般で遅々として進まない障害者雇用の問題を解決していくひとつの術として、制度を良心的に活用して、真摯にA型事業所の経営にとりくんでいるというのが実際です。

大企業には、障害者雇用に関して、特例子会社という制度がありますが、中小企業が特例子会社を設立するのには高いハードルがあります。たとえ、中小企業であってもできる、障害者雇用、社会貢献として、誇りを持って、A型事業所の経営にとりくんでいるのです。

「悪しきA型」という悪意に満ちた言葉は、時として、仲間同士にいらぬ軋轢や疑心暗鬼をもたらす危険性も秘めています。各県の同友会の議論の中でも、企業がA型事業所を経営することへの批判的な意見や、「もし、『悪しきA型事業者』が同友会に入会を申請したら、どうずる?」といった不安が出されたことも聞いています。しかし、そうした議論の中で、このような素晴らしい意見があったことを紹介しておきます。

「もし、『悪しきA型事業所』と呼ばれる事業者が、同友会に入会したいと言ってきたら、私たちはその事業者を喜んで迎えよう。私たちが、私たちの力で、その事業者を『悪しき』から『良き』に変えていけばよいのだから」

「悪しきA型」と、他を批判したり、排除することは簡単です。しかし、批判や排除の論理からは何も生まれません。私たちが今、問われていることは、自分たちが何を理想とし、何をどうしていくかということです。

本フォーラムでは、「悪しきA型」を失くし、「良きA型モデル」を築き上げていくために、私たちがどうとりくむべきかについて、みんなで話し合い、考えていきたいと思います。

 

 

「良きA型モデル」のキーワードは「ディーセント・ワーク」

 

「悪しきA型」に対抗する「良きA型モデル」とは、果たしてどんなモデルか?

私たちは、それは「障害のある人が、労働者としての権利を保障され、働くことを通して、幸福を実現していくモデル」であると考えます。

「良きA型モデル」を築き上げていくためのキーワードとして、「ディーセント・ワーク」という言葉をここで挙げさせていただきます。

「ディーセント・ワーク」という言葉を、今はじめて耳にされたという方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、「ディーセント・ワーク」という言葉は、まだそれほど社会全体に広く浸透していません。

「ディーセント・ワーク」は、ILO(国際労働機関)が、1999年の第87回総会に提出した理念です。今日、世界中で進んでいる格差と貧困、そして様々な権利侵害に対抗して、21世紀の全世界全労働者のための世界的目標として「すべての労働者にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事・誇りある労働)を」と掲げたものです。

「ディーセント・ワーク」自体は、障害のある人に特化した目標ではなく、すべての労働者を対象とするものですが、とりわけ、「ディーセント・ワーク」とは程遠い状況におかれている障害のある人のために、国連での障害者権利条約の採択を受けて、2007123日の国際障害者デーに、「ディーセント・ワークへの障害者の権利」が発表されています。今日は、詳しい説明をする時間がありませんが、これらはILOや国連のホームページで閲覧することができますから、機会のあるときに、ぜひ、お読みになってください。

また、高知県同友会では、各県にある障害者委員会と同等の組織に対して、「ディーセント・ワーク委員会」という呼称を使われています。非常に先駆的であり、まさに、このフォーラムに相応しいものであると思います。高知県同友会の方は、グループ討論の中で、ぜひ、そのことについても触れていただけますよう、壇上から特にお願いいたします。

私たちが、今後「良きA型モデル」を築き上げ、政策提言していくためには、現在、私たちが実施しているA型事業の現況をこの「ディーセント・ワーク」の視点から客観的に評価していくことが必要であると考えます。

また、評価を実施するためには、基準となる尺度を示す指標(ものさし)づくりが求められます。フォーラム実行委員会では、今回のフォーラム開催に合わせて、「A型事業所のディーセント・ワーク達成度評価表」という指標を試験的に作成しました。まだ不十分な箇所が多々あるとは思いますが、ご意見をいただき、修正・改良を加えたところで、調査活動を実施することができればと考えております。皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 

当初の予定原稿にはありませんでしたが、フォーラム当日の問題提起では、ここで合理的配慮について触れました。内容は、下記の620日のブログの内容と重複するので、ここでは省略します。下記をご参照ください。

 

「公益性」と「非営利性」を貫き、連帯と協同を築くための議論を

 

「悪しきA型」問題の本質は、本来、障害福祉サービスに求められる事業の「公益性」と「非営利性」が蔑にされ、障害のある人の働く場を「ディーセント・ワーク」から遠ざけてしまっていることです。

 私たちは、自らが実施しているA型事業の「公益性」と「非営利性」を自ら明らかにする必要があります。A型事業の経営が、中小企業としておこなう社会貢献活動の一環であるという位置付けが明確になされていることが大切であると考えます。

 

 私たちのA型事業所を「良きA型」とし、国や自治体に対して、更なる制度の改善や拡充を求め、政策提言をおこなっていくためには、連帯と協同が不可欠です。

今年2月には、企業、社福、NPOといった経営主体の種別を超え、互いの英知を集め、情報を共有し、刺激し合い、融合を図ることで、障害のある人の働くよろこびをつくりあげていくことを目的に、全Aネット(NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会)が設立されました。

今日の第3分科会で報告をしてくださる久保寺さんが、全Aネットの代表を務めていらっしゃり、同友会の会員事業所も多数、参画しています。こうした志を一つとする団体との協同を深めていくことが大切です。また、今回のフォーラムを一回限りのもとせず、継続的に開催し、交流と経験を蓄積していくことが重要です。

 「悪しきA型」という言葉をこの世から消し去り、障害のある人のディーセント・ワークを実現する「良きA型」を築き上げていくために、活発な議論が展開されることを強く期待して、問題提起を終えます。ご清聴ありがとうございました。

(以上、予定原稿)

 

 次回は、2日目のパネルディスカッションンでお話ししようと思っていることをまとめてみようと思います。

 

 

 

2.一般社団法人ディーセントワールド及びスワン町田店の「障害者」の表記について(5月26日)

 

 千葉市の熊谷俊人市長が、「障害者」という言葉を「障がい者」に置き換えることは反対と、ツイートしたことが反響を呼んでいるようです。(5月25日)

 

 反対の理由として、熊谷市長は次のように語っています。

 「『障害者』とは『社会の障害』でも『身体に障害を持つ者』でも無く、『社会との関わりの中で障害に直面している者』という意味であり、私たちはその障害を一つひとつ解消していくことが求められている、と理解しています」
 
 「その考えから、私は『障害』を『障がい』と置き換えることには反対です。『障害』という言葉が引っかかるからこそ、それを社会的に解消しなければならないわけで、表現をソフトにすることは決してバリアフリー社会の実現に資するものではありません」

 一般社団法人ディーセントワールドおよびスワンカフェ&ベーカリー町田1号店、スワンカフェ&ベーカリー町田2号店でも、通常は「障害者」という表記を使っています。

 

 熊谷市長の意見に対しても、「そもそもその人を指して障害などと考えることが大きな誤解、差別です」といった賛成意見のほか、「障碍と表記することから問題解決につながると思える」といった反対意見など、賛否両論あるようです。

 

 せっかくの機会なので、職員が共通認識をもつという目的も兼ねて、なぜ、ディーセントワールドおよびスワン町田店では、「障害者」という表記を使用しているかについて説明をしておこうと思います。

 

 障害の「害」の字がマイナスイメージを与えるので、障害の表記を見直そうとする動きの中で、近年、「障害者」「障がい者」「障碍者」「しょうがいしゃ」など様々な表記がなされています。

 

 私たちは、「障害者」=「社会的な『障』壁によって、被『害』を受けている人(『者』)」という障害学の「障害の社会モデル」の意味から、「障害者」や「障害のある人」といった表記を使用しています。

 

 「障害学」とは、イギリスやアメリカにおいて、1970年代から盛んに研究がなされてきた障害に対する考え方です。
 
 日本においては、1999年に「障害学への招待」(石川准・長瀬修編)という本が刊行されて以降、徐々に広まり、2003年には障害学会が設立されています。

 イギリス障害学の創始者であるマイケル・オリバーの最大の成果が「障害の社会モデル」と呼ばれる考え方です。「障害の社会モデル」の考え方は、「隔離に反対する身体障害者連盟(UPIAS)」の定義が基になっています。すなわち、イギリスの社会モデルは、障害者運動(当事者運動)から生まれた考え方です。

 

 「障害の社会モデル」の考え方は、「障害」を 、「Impairment」という個人的次元と、「Disabilities」という社会的次元に、切り離すことによって社会的責任の範囲を明確にしようとするものです。

 

 「Impairment」と「Disabilities」という、「障害」の2つの次元について、UPIASは、次のように定義しています。(1975年)

 

 「Impairment」とは、手足の一部または全部の欠損、身体に欠陥のある肢体、器官または機構を持っていること。

 「Disabilities」とは、「Impairment」を持つ人のことを全くまたは殆ど考慮せず、したがって社会活動の主流から彼らを排除している今日の社会組織によって生み出された不利益または活動の制約のこと。

 

 この「障害の社会モデル」を短絡的に捉えてしまい、「障害の原因を個人に求めるのが個人モデル(あるいは医療モデル)」、「障害の原因を社会に求めるのが社会モデル」と思ってしまう人が、福祉関係者の中にも結構、いるのですが、実際は、それほど単純な図式ではありません。

 

 もし、「障害の原因を社会に(すべて)求めるのが社会モデル」「社会を変えれば障害が(すべて)なくなる」と捉えてしまうと、治療やリハビリといったものまですべて否定されてしまいかねません。

 「障害の社会モデル」は、決して治療やリハビリを否定するものではなく、そういったものは、障害者自身が必要に応じて選びとればよいという考え方で、「障害の社会モデル」がめざすのは、「治療やリハビリを行おうが行うまいが、得られる利益や不利益が等価となるような社会」であり、つまりは、障害の義務・負担を個人が負うべきではないという考え方です。

 

 実は、この「障害の社会モデル」の考え方は、昨年(2014年)1月20日に、ようやく日本が批准した「国連障害者の権利条約(CRPDConvention on the Rights of Persons with Disabilities)」にしっかりと反映されています。

 

 CRPDの第1条・目的には次のように記されています。

 「この条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。

 障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害(「Impairment」)であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎とし、社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るもの(「Disabilities」)を有する者を含む」

 

 つまり、「障害者」=「Impairment」のある人の社会参加を妨げる社会の側の様々な障壁により、「Disabilities」を持たされた人ということです。

 CRPDの英語表記自体も、「障害者」は、「Persons with Disabilities」であって、「Disabled Persons」ではありません。

 こうして見てくると、世界に大きく後れをとり、ようやく141番目(EUを含む)に、「権利条約」を批准したこの国で、未だに、「害」が良いか、「がい」が良いかと論争を繰り返しているのは、あまり格好いいものではありません。

 

 千葉市長の発言内容を見れば、「障害の社会モデル」の考え方に基づき、「障害者」という表記にこだわっていらっしゃるのは明らかであり、また、「表記を変えるべきという議論に時間を尽くすよりも、本来の障害者行政に時間を割きたい」「議論するぐらいなら、雇用の場を広げたり、他にやることはたくさんある」という意見は、まったく正当なものであると思います。

 

 「害」の字を、ひらがな表記にして、「障がい」としている自治体がたくさんありますが、マイナスイメージといった感覚論や感情論ではなく、しっかりと意味を踏まえているところがどれくらいあるのか、また、「害」を「がい」に変えたことで、具体的にどんな効果があったのかということも気になりますが、そんな議論は、それこそ、時間の無駄になるだけなので、やめにしておきます。

 

 陸上男子400メートルの日本記録保持者である為末大さんも、少し前に障害者問題についての発言をして話題になっていましたが、「400メートル障害」を「400メートルハードル」と言ってほしいなどとクレームがくるというのも、「なんだかなぁ」という思いです。

 400メートル障害など、とても走れそうにないので、もっと身近な運動会の「障害物競走」で考えてみれば、「障害物競争」とは、速くまっすぐに走ることの「障害」になるものがコース上に置かれたレースであり、置かれているもの自体は、壊れているわけでもなく、「障害」のある物ではありません。

 「障害者」の「障害」は、生きていく上で様々な困難や制約となる「障害」のある人で、その人自身が社会の「障害」になる人ではありません。

 

 「障害」のない人が、「障害物競争」に参加したときに味わう大変さ、不自由さ、面倒くささを、「障害物」の置かれていない普通の「徒競走」のときにも同じくらい感じているのが「障害者」です。

 でも、「障害物競争」は、大変な一方、楽しく、面白いものでもあります。障害者が、この社会で生きていくときに、そうした楽しさ、面白さを感じられるような社会にしていくことこそが大切であると思います。

 

 ということで、一般社団法人ディーセントワールド及びスワンカフェ&ベーカリー町田1号店、スワンカフェ&ベーカリー町田2号店は、引き続き、障害のある人のディーセント・ワークの実現をめざしていきます。

 

 

 

3.「Decent Work(ディーセント・ワーク)」とは何か?(6月8日)

 

 一般社団法人ディーセントワールドは、障害者総合支援法に基づく就労継続支援事業(A型)として、スワンカフェ&ベーカリー町田1号店・スワンカフェ&ベーカリー町田2号店を経営しています。

 平成27年度の事業計画では、事業方針として、法人の経営理念及びスローガンに基づいた事業経営をおこなうと記しています。

 

 法人の経営理念は、Mission(使命)、Vision(目標)、Value(価値観)の3つの分野を、Will(めざすもの)とMust(やるべきこと)の2つの軸から整理したマトリクスの形になっています。

MissionWillのセルには、「ディーセント・ワークの実現をめざす」「事業を通じて、地域貢献・社会貢献に積極的にとりくむ」とあります。そして、その目標のために今、やるべきこと(Must)として、「就労継続支援A型事業に主体的にとりくみ、『良きA型モデル』をつくりだすとともに、事業経営を安定させること」「良質な仕事を確保し、障害のある人の経済的自立と社会参加を応援すること」と記しています。

 

 法人のスローガンは、「みんなに、はたらくよろこびを! ~一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人のディーセント・ワークの実現をめざします」となっています。

 今回は、初めて聞いたという方や、あまり聞いたことがないという方も多い「ディーセント・ワーク(Decent Work)」という言葉の意味について触れてみます。

 

Decent Work」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。

Decent Work」という言葉は、1999年の第87ILO(国際労働機関)総会に提出されたファン・ソマビア第9代事務局長(チリ)の報告において、初めて用いられました。ILOの事務局長報告には次のように記されています。

 

 「Decent Work」とは、「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味する。それはまた、すべての人が収入を得るのに十分な仕事があること」

言い換えれば、「Decent Work」とは、「まず仕事があることが基本だが、その仕事は、権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事でなければならない。」

 

 ソマビア事務局長から提案された「Decent Work」の課題は、ILOの歴史的な使命の現代的な表現として受け入れられ、ILOは、「Decent Work」を活動の主目標として位置付け、「Decent Work for All (すべての人にディーセント・ワークを)」の実現をめざし、様々な活動を展開しています。

 

2012年に就任したガイ・ライダー第10代事務局長(英国)も、21世紀におけるILOの役割として、引き続き、「Decent Work」の推進を掲げています。

 

 このように「Decent Work」の言葉や課題が掲げられた背景には、めざすべき方向性とは真逆の「Decent Work」が欠如した状態にある現実があります。ソマビア事務局長の報告には、その内容が次のように記されています。

 

 「世界中の人々は、失業、不完全就業、質の低い非生産的な仕事、危険な仕事と不安定な所得、権利が認められていない仕事、男女不平等、移民労働者の搾取、発言権の欠如、病気・障害・高齢に対する不十分な保護などにみられるような『Decent Work』の欠如に直面している」

 

 具体的には、

・世界中で働く年齢にある人の100人に6人は完全な失業状態にある。(総数は16千万人)

100人に16人は家族のために一人当たり一日1$の最低貧困ラインさえも稼げていない。

100人に50人(2人に1人)は、一日2$未満で生活している。

・すべての国(先進国にも途上国にも)に働く貧困層(ワーキングプア)が存在する。

5か国中2カ国の割合で結社(労働組合や労働者組織)の自由に深刻な問題がある。

・強制労働や児童労働が蔓延し、世界中では25千万人の子どもが働いている。

・働く人々の中で適切な社会保護(老齢・障害・疾病・医療など)の対象となっているのは20%程度しかない。

・労働災害や職業関連疾病で命を落とす人が13千人いる。

といった状態が挙げられています。

 

 わが国においては、「Decent Work」について、厚生労働省が次のように整理しています。

 

「デォーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」とは、

働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること

労働三権(=団結権、団体交渉権、団体行動権)などの働く上での権利が保障され、職場で発言が行いやすく、それが認められること

家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること

公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

 

 世界的にみられる「Decent Work」の欠如した状態は、わが国においても同様にみられます。

具体的には、

・相対的貧困率が16%(2009年)で、6人に1人が貧困状態にある。

(日本の可処分所得の中央値は224万円であり、OECD基準値による貧困線は112万円)

・年収200万円以下が1000万人を超えている。(給与所得者の4人に1人の割合)

・劣悪な労働条件(ブラック企業)、偽装派遣や派遣期間途中での一方的な打ち切りなどの違法行為が蔓延している。

・職を奪われた労働者の究極の4拓が「犯罪・自殺・ホームレス・餓死」と呼ばれ、年間に3万人もの自殺者が出ている。(その80%が労働年齢にある人)

といった状態が挙げられます。

 

ILOは、「Decent Work」実現のために、上記の1999年の第87ILO総会事務局長報告と2008年の第97回総会において採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」において、次の4つの戦略目標を掲げています。

 

仕事の創出:必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事をつくだすことを支援

社会的保護の拡充:安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備、社会保障の充実

社会対話の促進:職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政労使の話し合いの促進

仕事における権利の保障:不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障・尊重

 

 わが国においては、平成226月に閣議(鳩山内閣)決定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」において、「Decent Work」の言葉が初めて用いられました。

 

 「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」の実現に向けて、「同一価値労働同一賃金」に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引き上げ、ワーク・ライフ・バランスの実現(年次有給休暇の取得推進、労働時間短縮、育児休業等の推進)に取り組む。

 

ILOが、21世紀の全世界の実現目標として掲げる「Decent Work」は、すべての労働者を対象としたものです。そこには、性別や年齢を問わず、すべての人が含まれます。障害のある人も、障害のない人も、皆、「Decent Work」の対象です。

 

 しかし、障害のある人は、障害のない人と比べて、より「Decent Work」が欠如した状態におかれています。そのため、ILOは、2007123日の国際障害者デーに、「Decent Workへの障害者の権利」を発表しました。

 「Decent Workへの障害者の権利」の前書きには、「20カ国の批准後に発行するCRPD(Convention

on the Rights of Persons with Disabilities /『国連障害者の権利条約』)と既存のILO基準の規定を各国が実施するための情報源として意図されている」と書かれています。わが国が20141月にようやく批准したCRPD(特に第27条の労働及び雇用)には、「Decent Work」という言葉こそないものの、「Decent Work」の考え方が強く反映されています。

 

CRPDが、障害者に特別な権利を求めるものでないことと同様に、「Decent Workへの障害者の権利」も障害者に特別な「Decent Work」を求めるものではありません。そこに記されていることは、障害のない人と同等な「Decent Work」の実現をめざそうということです。

 

 労働年齢にある障害者の数は、世界中で47千万人います。「Decent Work」の欠如は、先述したように、これら障害のある人々に対して、特別に厳しい打撃を与えています。

 途上国の障害者の82%が貧困線未満で生活を送り、貧困層の1520%を障害者が占めています。

 ほとんどの国で障害者の失業率は、障害のない人々の失業率と比べ、23倍も高くなっています。

 障害者の多くが、訓練を修了しても、働きがいのある人間らしい職を見つけることができず、不満とやる気を失い、差別的な障壁や働く能力に関する誤った思い込みによって気持ちを砕かれ、多くの障害者が仕事を探すことをやめ、障害者給付があればそれに頼り、あるいは家族やコミュニティに支えられながらインフォーマル経済の付加価値の低い仕事で何とか生計を立てているのが現実です。

 

 障害のある人々の厳しい現状は、わが国もまた同様です。わが国の障害者総数は、国民の約6%にあたる744万人で、その内、労働年齢にある人は、365万人です。しかし、雇用契約を結び、働いている障害者は、わずか36.6万人で、これは労働年齢にある障害者の10%に過ぎません。すなわち、300万人以上の障害者が雇用関係になく、貧困状態にあります。障害者団体(きょうされん)が実施した調査では、働く(雇用関係にない福祉的就労の人も含めて)障害者の56%が、障害年金や福祉手当を含めても年収100万円以下で生活しており、年収200万円を超える人は、わずか1%という状況です。

 

 「Decent Work」に関するILOのソマビア事務局長報告や「Decent Workへの障害者の権利」といった文書は、ILOのホームページからダウンロードして読むことができます。どちらも日本語訳されたものがあります。分厚く読み応えのある文書ですが、機会があれば、ぜひ目を通していただきたいと思います。また、「Decent Work」に関する啓蒙ビデオを観ることもできます。

 

 「Decent Work ~より良い世界はここから始まる~」のビデオは、「Decent Work」をイラストでわかりやすく次のように説明しています。

 

・より良い世界では、児童労働はない。強制労働もない。不平等もなく、職場における危険もない。

・より良い世界では、「Decent Work」の機会が、すべての人に開かれる。

・「Decent Work」とは、尊厳ある労働。「Decent Work」は、家族に糧を与える。子どもたちに教育を与える。私たちに声を与える。私たちを差別から守る盾となる。安全と保護をもたらす。より良い生活水準を提供する。尊厳ある引退を可能にする。

 

 「Decent Work」(働きがいのある人間らしい仕事)とは、働いている本人のみならず、本人の家族や子どもたちにとっても良い状態をもたらすものです。また、一時的に良い状態であることを指すのではなく、その状態が継続的に持続されることを指すものです。また、その良い状態は、働いている期間だけではなく、仕事をリタイアした後も続かなければなりません。「Decent Work」の大きな目標は、人々が働くことを通して、あらゆる貧困から脱却し、平和で幸せな人生を築くことです。

 

 私たち一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人の「Decent Work」を実現していくために、今の私たちにできる現実的な手段として、就労継続支援事業A型を選びました。

 

 

 

4.就労継続支援「A型」と「B型」のちがいは?(6月17日)

 

よくご存じのように、障害福祉サービスの「就労継続支援事業」には、「A型(雇用型)」と「B型(非雇用型)」があり、一般社団法人ディーセントワールドが経営するスワン町田1号店・2号店で実施しているのは、就労継続支援事業A型です。

 

就労継続支援事業の根拠となる法律は、「障害者総合支援法」(平成24年に「障害者自立支援法」から名称変更。正式な名称は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」といいます)という法律ですが、実は、この法律自体には、「A型」と「B型」の違いは記されていません。ただ、「就労継続支援」とあるだけです。

 

実際の法律の条文を見ると、「障害者総合支援法」の第5条の第1項では、次のように、まず「障害福祉サービス」の種類を列挙し、その中の1つに「就労継続支援」があります。

 

5条第1項 この法律において「障害福祉サービス」とは、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、施設入所支援、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援及び共同生活援助をいい、(後略)

 

 第1項で列挙した事業について、第2項以降で、1つずつその内容を説明しています。「就労継続支援」については、第14項に記されています。

 

5条第14項 この法律において「就労継続支援」とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。

 

 というように、どこにも「A型」「B型」の違いは示されていません。

 

 では、一体どこで、「A型」と「B型」の区分がされているのでしょうか?

そのヒントは、条文の中にあります。第14項の最後に書かれている「厚生労働省で定める便宜」の部分です。

 

「A型」と「B型」の区分は、法律を実際に施行するために、行政機関が定めた省令と呼ばれる「命令」=この場合は、厚生労働省令に記されています。

 

 少し脱線しますが、法律と省令の関係について、簡単に説明しておきます。

 

 日本の最高法規は、いうまでもなく、日本国憲法です。その下に国会で定めた「法律」があります。

平成273月現在で、わが国の法律は1935本あります。よく耳にする「六法全書」に収められているのは、憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法の6つの法律。「障害者基本法」や「教育基本法」のように、「基本法」と名前がつく法律は、国の制度・政策に関する理念や基本方針を謳ったもので、44本あります。

 政省令と呼ばれるものは、法律を実際に施行するために、行政機関が定めた「命令」です。内閣が定めるものを「政令」、各省庁の大臣が個別に定めるものを「省令」といいます。

 政省令の下には、各省庁の事務方が決めた細かい解釈ルールを定める「通知」があります。

 

 就労継続支援「A型」と「B型」の違いは、「障害者総合支援法施行規則」(正式名称は、法律名と同じで、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則」といいます)という厚生労働省令によって定められています。

 

 省令の第6条の10に次のように書かれています。

 

6条の10  法(前述の「障害者総合支援法」を指します)第5条第14 に規定する厚生労働省令で定める便宜は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める便宜とする。 

  就労継続支援A型 通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して行う雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援 

  就労継続支援B型 通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援 

 

 何やら小難しそうに書かれていますが、波線の部分に注目していただくと、「A型」は「雇用契約に基づく就労が可能である者」、「B型」は「雇用契約に基づく就労が困難である者」とあります。つまり、「A型」と「B型」の違いは、省令に基づく「雇用契約の有無」のただ1点ということになります。

 

 「A型」は、利用者に対して、最低賃金を支給することが原則となっています。「なぜ、A型は最低賃金を支払わなければならないか?」。それは、つまり、「雇用契約」があるからということになります。

 

ここで、また少し脱線してしまいますが、「労働基準法」では、「雇用契約」ではなく「労働契約」という表現が使われています。「民法」では、契約した相手のために労働に従事し、その対価として報酬を受け取る契約を指して「雇用契約」としています。

1947年に「労働基準法」が制定されるまでは、労使間の問題は「民法」に基づき、処理されていました。「民法」は、私人間のことについて定めた法律で、「契約の自由という原理」に基づき、当事者間の契約は自由であり、国は干渉しないとされています。「労働基準法」は、この原理を修正し、労働者を保護することを目的に制定されました。「労働基準法」に規定のないものは「民法」が適用されますが、「労働基準法」と「民法」で結論が異なる問題の場合は、「労働基準法」が優先されるしくみになっています。

「労働基準法」をはじめとする労働関連の法律では、「雇用契約」に労働者保護の制約を加えた契約を指して「労働契約」としています。

就労継続支援A型は、労働法規を適用し、利用者の労働者性を担保することを目的とする事業ですから、本来であれば、省令の文言も「雇用契約に基づく就労」ではなく、「労働契約に基づく就労(労働)」とした方が、すっきりするのではないかと思います。

 

いずれにせよ、A型の「雇用契約」は、「労働契約」と考えられますから、労働法規が適用され、最低賃金を支払わなければならないことになります。

 

障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービス」の中で、唯一、労働法規の適用が規定されているのが、就労継続支援事業A型です。

労働法規が適用されることで、働くことに関して、障害のある人が障害のない人と初めて同じ土俵に立つことができます。

CRPD(国連・障害者権利条約)の第27条 労働及び雇用では、「障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。」とし、さらに「あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること」と定めています。

ここで「あらゆる形態の雇用」と書かれていることが、とても重要に思えます。

「あらゆる形態の雇用」に、たとえば、就労継続支援B型で働く障害者が含まるか否かということについては、様々な意見があります。実際に、自立支援法以前の「作業所」で、低賃金で障害者を「働かせていた」事業者に対して、違法と判断され、改善を求められるという事例もありました。

一般社団法人ディーセントワールドは、就労継続支援A型に特化したかたちで、「障害福祉サービス」事業を経営するために、2年前に既存の社会福祉法人から独立するかたちで設立した法人です。

法人の経営理念の1番目に掲げている目標は、「障害のある人のディーセント・ワークの実現」をめざすことです。

日々、事業経営にとりくみながら、「本当の意味で、障害のある人のディーセント・ワークを実現するためには、就労継続支援A型といった福祉のサービスの枠組みの中で、障害のある人を雇用すること自体、間違っているのではないか」と、実は考えています。

本来は、障害のある人もない人も、働く意欲と能力のある人は、一般の企業等で働けることが理想的です。ただ、現実的には、働く意欲のある障害のある人全てが、自分の希望する職に就くことは難しく、また、折角、職に就いても、周囲の理解や配慮(合理的配慮)が足りず、就労を継続することが困難になってしまうことが多々あります。

そうしたことから、就労継続支援A型は、理想と現実のギャップを埋める役割を担う「中間的」かつ「過渡的」な事業ではないかと考えています。

 

 

 

5.A型事業所は、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の雇用の場となるべきではないか

(6月20日)

 

●CRPD(障害者権利条約)で示される「合理的配慮」とは何か?

 

先日、「就労継続支援事業『A型』と『B型』のちがいについて」の記事の最後に次のようなことを書かせていただきました。

 

本来は、障害のある人もない人も、働く意欲と能力のある人は、一般の企業等で働けることが理想的です。ただ、現実的には、働く意欲のある障害のある人全てが、自分の希望する職に就くことは難しく、また、折角、職に就いても、周囲の理解や配慮(合理的配慮)が足りず、就労を継続することが困難になってしまうことが多々あります。

 

 突然、文中にでてきた「合理的配慮」という言葉に、戸惑われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

 「合理的配慮=Reasonable Accommodation」という言葉は、障害のある人の尊厳と権利を保障するための条約であるCRPD(障害者権利条約)の根幹をなす考え方です。

 

CRPDの第2条では、「合理的配慮」について、次のように定義しています。

 

 「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

 

 なんとなく、わかったような、わからないような定義ですが、日本障害フォーラム幹事会議長で日本障害者協議会(JD)常務理事でもある藤井克徳さんは、「合理的配慮」とは、障害のある人が障害のない人と同等の立場に立つための「支え」や「補い」である、と易しく説明してくださっています。

 

  CRPDでは、この「合理的配慮」という言葉が、第2条の他に、第5条、第14条、第24条、第27条で登場します。第27条は、すでにご承知のとおり、労働及び雇用について書かれた条文です。

 

 第27条の第1項では、労働と雇用に関わる障害者の権利保障の課題として、11の具体的課題を列挙していますが、9番目に、「職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること」とあります。

 

  CRPDの批准に向け、関連する国内法を整備する中、平成25626日に公布され、平成2841日から施行される「障害者差別解消法(正式名称は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)では、この「合理的配慮」がキーワードになっています。

 

 「障害者差別解消法」は、国の行政機関や地方公共団体等及び民間事業者による「障害を理由とする差別」を禁止することを目的としていますが、「障害を理由とする差別」について次のように謳っています。

 

 「障害を理由とする差別」とは、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為をいいます。また、障害のある方から何らかの配慮を求める意思の表明(知的障害等により、本人自らの意思を表明することが困難な場合には、その家族などが本人を補佐して意思の表明をすることができる)があった場合には、負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮(以下、「合理的配慮」)をおこなうことが求められます。こうした配慮をおこなわないことで、障害のある方の権利利益が侵害される場合も、差別にあたります。(「障害者差別解消法」パンフレットより)

 

 「合理的配慮」の具体的な例については、今後、国の「基本方針」や行政機関ごとの「対応要領」や「対応指針」が示される中で、さらに明らかになると思われますが、大切なことは、「合理的配慮」をおこなう責任は、社会の側にあり、差別には、直接的・間接的な差別だけではなく、この「合理的配慮」を怠ることも差別に含まれるということです。

 

 法律では、障害者への「合理的配慮」の提供は、国の行政機関や地方公共団体等に対しては、「法的義務」として位置づけられ、民間事業者に対しては、「努力義務」となっています。

 

 就労継続支援事業A型の担うべき役割を考えるキーワードとして、この「合理的配慮」という考え方を、まず押さえておいてください。

 

「雇用か福祉か」の二分モデルから、「雇用も福祉も」の対角線モデル

 

 就労継続支援事業A型が、障害者総合支援法に基づく現行の障害福祉サービスの中で、唯一、労働法規の適用を受ける事業であることは既に触れたとおりです。

 

 障害者自立支援法施行以前、というよりもCRPD(「障害者権利条約」)以前の、日本の障害者就労支援施策は、福祉の施策と雇用の施策で、スパッと真っ二つに切り分けられていました。「合理的配慮」について易しい解説をしてくださった藤井さんは、これを二元モデル(二分法モデル)と呼び、下図のようにイメージ化しています。

 

 これまで、よく言われたことは、障害のある人が学校を卒業する際、最初にどこの窓口に相談に行ったかで、その後の進路がずっと決まってしまうということです。具体的には、最初にハローワークに相談に行った人は、一般就労。最初に福祉事務所などの福祉の窓口に相談に行った人は、作業所などの福祉的就労。一般就労と福祉的就労の間には、厚い、高い壁があって、一度、福祉的就労に行った人が、一般就労に行くことのできる可能性は殆ど皆無。(実際に、自立支援法以前の授産施設から、一般就労に移行する人の割合は、1%にも満たない状況でした)また、一般就労した人は逆に福祉のサービスを利用しにくいといった状況がありました。(今も、やはり、その状況は続いているように思えますが)

 

 藤井さんは、こうした状況を「二分モデル」と批判したうえで、あるべき施策のあり方として、「対角線モデル」という形を提案されています。「雇用か福祉か」という二者択一を迫る「二分モデル」から、「雇用も福祉も」と、状況に応じてサービスを選択できる「対角線モデル」への転換こそが、あるべき障害者就労支援施策であるという考え方です。

 

 従来の「二分モデル」では、本人の障害が重いか軽いかということが重視される、いわば、働くことが困難な原因を、個人の機能障害に求める(障害の)医学モデル(個人モデル)に基づくものでした。

 これに対して、「対角線モデル」では、働くことが困難となっている原因は、個人の機能障害ではなく、社会や本人を取り巻く環境にあるということを重視した、(障害の)社会モデルに基づくものとなっています。すなわち、障害の重い軽いについては、個人の機能障害ではなく、働く上で障害がどのように影響するかを着目した上で、障害の影響が少ない場合は、雇用施策の割合が大きく福祉施策の必要度は小さいが、影響が大きくなるにつれて、その割合が逆転していくというものになっています。

 さらに、藤井さんは、社会福祉施策は、=CRPDで定義される「合理的配慮」の施策であるといった考え方も示されています。

 

2015062001

就労継続支援事業A型は、「合理的配慮」が標準装備された障害者の就労・雇用の場

 

 就労継続支援A型事業所の担うべき役割、果たすべき役割を考えるときに、藤井さんが示された、この「対角線モデル」は、非常に有効であると思っています。

 

 結論を先に述べてしまうと、就労継続支援A型事業所は、今後、障害のある人が働く上で、もっとも重要なキーワードになる「合理的配慮」が標準装備された「就労の場」「雇用の場」であることをめざすべきではないかと考えます。

 

 あるべき就労支援策を示す対角線モデルの枠組みをなす四角形を1つのA型事業所として考えてみることにします。1つのA型事業所には、障害のある人とない人が共に働いています。労働障害の重い人(=働く上で、本人の機能障害が大きく影響する人)から労働障害の軽い人(=働く上で、本人の機能障害の影響が小さい人)まで、様々な人が事業所で働いています。労働障害の重い人に必要な「合理的配慮」をおこなうことで、今、利用している人よりも、もっと労働障害の重い人(ひいては機能障害の重い人)の受け入れを図っていくこともきっと可能になるはずです。四角形の上辺(四角形の高さ)が、現在の事業所のディーセント・ワークの到達点です。労働障害の重い人には、合理的配慮を手厚くすることで、労働障害の軽い人には、その人に応じた適度な合理的配慮をおこなうことで、目標とするディーセント・ワークに近づけることが可能になります。各事業所がめざすことは、ディーセント・ワークの達成度を高めていくこと、すなわち、上辺をさらに上に引き上げる(高さを高くしていく)ことです。

 「合理的配慮」をおこなうためには、それなりのコストが発生します。しかし、このコストは、合理的配慮が事業所内に浸透し、経験が蓄積されていく中で、やがて軽減化を図っていくことができるものです。また、ディーセント・ワークの達成度が上がることで、障害のある人が納税者になる可能性も広がっていきます。

 

 「合理的配慮」の義務は、民間事業者は現時点では「努力義務」にとどまっています。その理由は、必要な「合理的配慮」をおこなうためには、一定の(初期の段階ではそれなりに多額の)コストが発生するからに他なりません。A型事業者には、報酬というかたちで、公費が注がれています。この公費の正しい使途こそが、「合理的配慮」をおこなうためのコストではないかと思っています。

 

 就労継続支援A型事業所を、「合理的配慮」が努力義務としてではなく「標準装備された」障害者の就労・雇用の場として、明確に位置付け、各事業者が弛まぬ努力で、ディーセント・ワークの達成度を高めていくことをめざすことこそが、「悪しきA型」を失くし、「良きA型モデル」を育てていく道につながるものと考えます。

 

 

 

6.「就労継続支援A型事業所のディーセント・ワーク達成度評価表」のテスト版を公開します。よろしかったら、お試しください。(6月21日)

 

625日、26日に横浜市で開催する「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」では、全国からA型事業者が参加し、「良きA型モデル」を築くために、私たちは何をなすべきかをテーマに、実践の交流やグループ討議をおこないます。フォーラム開催実行委員会からは、実践報告や討議に先立ち、問題提起をおこないます。

 

その中で、「良きA型モデル」を築くために、現在の事業所のとりくみを、「ディーセント・ワーク」の視点から客観的に評価する「指標(基準となる尺度を示すもの)」の必要性について述べています。今回は、この「指標」についての説明と、テスト版「指標」の公開です。

 

「ディーセント・ワーク」は、一般的には「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されます。

「働きがいのある人間らしい仕事」という概念は素晴らしい理想です。しかしながら、何がどのレベルに達したときに、ディーセント・ワークが達成されるのかという基準は、曖昧です。障害のある人のディーセント・ワークを実現するためには、具体的な行動計画に関わる目標が提示され、各事業所の現況が、その目標に対して、どの程度の達成状況にあるかを把握し、足りないものは何か、優先的にとりくむべき課題は何かを知ることが大切です。

 

わが国では、厚生労働省が、ディーセント・ワークの内容について、次のように整理しています。

 

(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること

(2)労働三権などの働く上での権利が保障され、職場で発言が行いやすく、それが認められること

(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること

(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

 

 何度も繰り返しになりますが、「ディーセント・ワーク」は、21世紀の全世界・全労働者の実現目標として、ILOが打ち出した概念です。厚生労働省は、この「ディーセント・ワーク」の概念を普及していくために、平成23年度に、みずほ情報総研に委託し、「ディーセント・ワークと企業経営に関する調査」をおこなっています。委託を受けたみずほ情報総研では、企業のディーセント・ワークの達成度を数値的にとらえるために、厚生労働省が定義した上記のディーセント・ワークの内容について、再整理をおこない、次の7つの軸を設定しました。

 

ワーク・ライフ・バランス軸:「ワーク」と「ライフ」をバランスさせながら、いくつになっても働き続けることができる職場かどうかを示す軸

公正・平等軸:性別や雇用形態を問わず、すべての労働者が「公正」「平等」に活躍できる職場かどうかを示す軸

能力開発軸:能力開発機会が確保され、自己の鍛錬ができる職場かどうかを示す軸

収入軸:持続可能な生計に足る収入を得ることができる職場かどうかを示す軸

労働者の権利軸:労働三権などの働く上での権利が保障され、発言が行いやすく、それが認められる職場かどうかを示す軸

安全衛生軸:安全な環境が確保されている職場かどうかを示す軸

セーフティネット軸:最低限(以上)の公的な雇用保険、医療・年金制度などに確実に加入している職場かどうかを示す軸

 

また、各軸の達成度を評価するための基準となる項目を挙げました。

 

ワーク・ライフ・バランス軸:労働時間、年次有給休暇、育児休暇、介護休業などの取得状況、中高年齢者の雇用確保や定年、非正社員から正社員への登用制度など

公正・平等軸:役職別女性管理職比率、男性と女性の処遇格差、女性の能力発揮を図るための取り組み(ポジティブ・アクション)など

能力開発軸:計画的なOJT、自己啓発支援、自己申告制度、社内公募制度など

収入軸:年収額、定期昇給、ベースアップ、業績評価による反映、正社員と非正社員の処遇格差の改善、一人当たり法定外福利厚生費など

労働者の権利軸:労働組合の有無、労使間の話し合い、苦情処理機関、労働条件の個別説明など

安全衛生軸:産業医、衛生委員会、定期的な健康診断、メンタルヘルスなど

セーフティネット軸:健康保険、厚生年金保険、私傷病時の休職制度など

 

 この調査自体は、従業員1000人以上の大企業を対象におこなわれたことに加え、回答数も少なかったため、ディーセント・ワークの概念の普及に大きな役割を果たしたとは、言い難い面もありますが、企業がディーセント・ワークの実現に向けたとりくみを進めることで、従業員の満足度やモチベーションがあがり、結果的には「平均勤続年数の長期化」や「売上高の上昇」「経常利益の上昇」といった人事面、経営面における成果につながるであろうと結んでいます。

 

 全国フォーラムの問題提起の中で、提案させていただく「指標」は、みずほ情報総研が再整理した「ディーセント・ワーク」の概念に関わる7つの軸を準用し、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の働く場である就労継続支援A型事業所の「ディーセント・ワーク」の達成度を測り、各事業者が「良きA型モデル」を築くために必要な課題を把握する一助となることを目的に、実行委員会で作成したものです。

 

 余談になりますが、私自身は、当初、この「指標」を就労系の障害福祉サービス(就労継続支援A型、B型、就労移行支援、及び訓練手当を支給している一部の生活介護事業所も含めて)全体で、使えるものにできないかと考え、7つの軸に基づく評価基準をつくろうと試みました。しかし、その場合、どうしても福祉的な視点が強まってしまい、結果的には、「ディーセント・ワーク」が本来めざすべき方向性とのずれを感じるものとなってしまいました。そのため、今回の「指標」は、就労継続支援A型事業所のみを対象とするものに、改めて作り直しました。

 

 問題提起の予定原稿でも触れていますが、今回の「指標」は、試験的なものであり、まだまだ不十分な箇所もたくさんあります。15分程のお時間があれば、すべて記入できるものとなっています。すべて記入すると、貴事業所の「ディーセント・ワーク」の達成度が7つの軸のレーダーチャートで点数評価されるようになっています。平均点は、仮の数値を入れたものなので、無視してください。「良きA型モデル」を築くために、たとえば点数評価の低いものから優先的に改善にとりくむなど、各事業所で独自に行動目標を定める際のお役に立てればと願っています。実際にご使用いただいた上で、ご意見、ご感想などをお寄せいただければ、大変有り難く存じます。テスト版は、下記からダウンロードできます。Excelのファイルになっています。

 

「decentwork-hyouka.xlsx」をダウンロード

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「就労継続支援A型事業所のディーセント・ワーク達成度評価表」のテスト版を公開します。よろしかったら、お試しください。

625日、26日に横浜市で開催する「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」では、全国からA型事業者が参加し、「良きA型モデル」を築くために、私たちは何をなすべきかをテーマに、実践の交流やグループ討議をおこないます。フォーラム開催実行委員会からは、実践報告や討議に先立ち、問題提起をおこないます。

 

その中で、「良きA型モデル」を築くために、現在の事業所のとりくみを、「ディーセント・ワーク」の視点から客観的に評価する「指標(基準となる尺度を示すもの)」の必要性について述べています。今回は、この「指標」についての説明と、テスト版「指標」の公開です。

 

「ディーセント・ワーク」は、一般的には「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されます。

「働きがいのある人間らしい仕事」という概念は素晴らしい理想です。しかしながら、何がどのレベルに達したときに、ディーセント・ワークが達成されるのかという基準は、曖昧です。障害のある人のディーセント・ワークを実現するためには、具体的な行動計画に関わる目標が提示され、各事業所の現況が、その目標に対して、どの程度の達成状況にあるかを把握し、足りないものは何か、優先的にとりくむべき課題は何かを知ることが大切です。

 

わが国では、厚生労働省が、ディーセント・ワークの内容について、次のように整理しています。

 

(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること

(2)労働三権などの働く上での権利が保障され、職場で発言が行いやすく、それが認められること

(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること

(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

 

 何度も繰り返しになりますが、「ディーセント・ワーク」は、21世紀の全世界・全労働者の実現目標として、ILOが打ち出した概念です。厚生労働省は、この「ディーセント・ワーク」の概念を普及していくために、平成23年度に、みずほ情報総研に委託し、「ディーセント・ワークと企業経営に関する調査」をおこなっています。委託を受けたみずほ情報総研では、企業のディーセント・ワークの達成度を数値的にとらえるために、厚生労働省が定義した上記のディーセント・ワークの内容について、再整理をおこない、次の7つの軸を設定しました。

 

①ワーク・ライフ・バランス軸:「ワーク」と「ライフ」をバランスさせながら、いくつになっても働き続けることができる職場かどうかを示す軸

②公正・平等軸:性別や雇用形態を問わず、すべての労働者が「公正」「平等」に活躍できる職場かどうかを示す軸

③能力開発軸:能力開発機会が確保され、自己の鍛錬ができる職場かどうかを示す軸

④収入軸:持続可能な生計に足る収入を得ることができる職場かどうかを示す軸

⑤労働者の権利軸:労働三権などの働く上での権利が保障され、発言が行いやすく、それが認められる職場かどうかを示す軸

⑥安全衛生軸:安全な環境が確保されている職場かどうかを示す軸

⑦セーフティネット軸:最低限(以上)の公的な雇用保険、医療・年金制度などに確実に加入している職場かどうかを示す軸

 

また、各軸の達成度を評価するための基準となる項目を挙げました。

 

①ワーク・ライフ・バランス軸:労働時間、年次有給休暇、育児休暇、介護休業などの取得状況、中高年齢者の雇用確保や定年、非正社員から正社員への登用制度など

②公正・平等軸:役職別女性管理職比率、男性と女性の処遇格差、女性の能力発揮を図るための取り組み(ポジティブ・アクション)など

③能力開発軸:計画的なOJT、自己啓発支援、自己申告制度、社内公募制度など

④収入軸:年収額、定期昇給、ベースアップ、業績評価による反映、正社員と非正社員の処遇格差の改善、一人当たり法定外福利厚生費など

⑤労働者の権利軸:労働組合の有無、労使間の話し合い、苦情処理機関、労働条件の個別説明など

⑥安全衛生軸:産業医、衛生委員会、定期的な健康診断、メンタルヘルスなど

⑦セーフティネット軸:健康保険、厚生年金保険、私傷病時の休職制度など

 

 この調査自体は、従業員1000人以上の大企業を対象におこなわれたことに加え、回答数も少なかったため、ディーセント・ワークの概念の普及に大きな役割を果たしたとは、言い難い面もありますが、企業がディーセント・ワークの実現に向けたとりくみを進めることで、従業員の満足度やモチベーションがあがり、結果的には「平均勤続年数の長期化」や「売上高の上昇」「経常利益の上昇」といった人事面、経営面における成果につながるであろうと結んでいます。

 

 全国フォーラムの問題提起の中で、提案させていただく「指標」は、みずほ情報総研が再整理した「ディーセント・ワーク」の概念に関わる7つの軸を準用し、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の働く場である就労継続支援A型事業所の「ディーセント・ワーク」の達成度を測り、各事業者が「良きA型モデル」を築くために必要な課題を把握する一助となることを目的に、実行委員会で作成したものです。

 

 余談になりますが、私自身は、当初、この「指標」を就労系の障害福祉サービス(就労継続支援A型、B型、就労移行支援、及び訓練手当を支給している一部の生活介護事業所も含めて)全体で、使えるものにできないかと考え、7つの軸に基づく評価基準をつくろうと試みました。しかし、その場合、どうしても福祉的な視点が強まってしまい、結果的には、「ディーセント・ワーク」が本来めざすべき方向性とのずれを感じるものとなってしまいました。そのため、今回の「指標」は、就労継続支援A型事業所のみを対象とするものに、改めて作り直しました。

 

 問題提起の予定原稿でも触れていますが、今回の「指標」は、試験的なものであり、まだまだ不十分な箇所もたくさんあります。15分程のお時間があれば、すべて記入できるものとなっています。すべて記入すると、貴事業所の「ディーセント・ワーク」の達成度が7つの軸のレーダーチャートで点数評価されるようになっています。平均点は、仮の数値を入れたものなので、無視してください。「良きA型モデル」を築くために、たとえば点数評価の低いものから優先的に改善にとりくむなど、各事業所で独自に行動目標を定める際のお役に立てればと願っています。実際にご使用いただいた上で、ご意見、ご感想などをお寄せいただければ、大変有り難く存じます。テスト版は、下記からダウンロードできます。Excelのファイルになっています。

「decentwork-hyouka.xlsx」をダウンロード

| | コメント (0) | トラックバック (0)

A型事業所は、「合理的配慮」が標準装備された障害のある人の雇用の場となるべきではないか

●CRPD(障害者権利条約)で示される「合理的配慮」とは何か?

 

先日、「就労継続支援事業『A型』と『B型』のちがいについて」の記事の最後に次のようなことを書かせていただきました。

 

本来は、障害のある人もない人も、働く意欲と能力のある人は、一般の企業等で働けることが理想的です。ただ、現実的には、働く意欲のある障害のある人全てが、自分の希望する職に就くことは難しく、また、折角、職に就いても、周囲の理解や配慮(合理的配慮)が足りず、就労を継続することが困難になってしまうことが多々あります。

 

 突然、文中にでてきた「合理的配慮」という言葉に、戸惑われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

 「合理的配慮=Reasonable Accommodation」という言葉は、障害のある人の尊厳と権利を保障するための条約であるCRPD(障害者権利条約)の根幹をなす考え方です。

 

 CRPDの第2条では、「合理的配慮」について、次のように定義しています。

 

 「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

 

 なんとなく、わかったような、わからないような定義ですが、日本障害フォーラム幹事会議長で日本障害者協議会(JD)常務理事でもある藤井克徳さんは、「合理的配慮」とは、障害のある人が障害のない人と同等の立場に立つための「支え」や「補い」である、と易しく説明してくださっています。

 

 CRPDでは、この「合理的配慮」という言葉が、第2条の他に、第5条、第14条、第24条、第27条で登場します。第27条は、すでにご承知のとおり、労働及び雇用について書かれた条文です。

 

 第27条の第1項では、労働と雇用に関わる障害者の権利保障の課題として、11の具体的課題を列挙していますが、9番目に、「職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること」とあります。

 

 CRPDの批准に向け、関連する国内法を整備する中、平成25626日に公布され、平成2841日から施行される「障害者差別解消法(正式名称は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)では、この「合理的配慮」がキーワードになっています。

 

 「障害者差別解消法」は、国の行政機関や地方公共団体等及び民間事業者による「障害を理由とする差別」を禁止することを目的としていますが、「障害を理由とする差別」について次のように謳っています。

 

 「障害を理由とする差別」とは、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為をいいます。また、障害のある方から何らかの配慮を求める意思の表明(知的障害等により、本人自らの意思を表明することが困難な場合には、その家族などが本人を補佐して意思の表明をすることができる)があった場合には、負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮(以下、「合理的配慮」)をおこなうことが求められます。こうした配慮をおこなわないことで、障害のある方の権利利益が侵害される場合も、差別にあたります。(「障害者差別解消法」パンフレットより)

 

 「合理的配慮」の具体的な例については、今後、国の「基本方針」や行政機関ごとの「対応要領」や「対応指針」が示される中で、さらに明らかになると思われますが、大切なことは、「合理的配慮」をおこなう責任は、社会の側にあり、差別には、直接的・間接的な差別だけではなく、この「合理的配慮」を怠ることも差別に含まれるということです。

 

 法律では、障害者への「合理的配慮」の提供は、国の行政機関や地方公共団体等に対しては、「法的義務」として位置づけられ、民間事業者に対しては、「努力義務」となっています。

 

 就労継続支援事業A型の担うべき役割を考えるキーワードとして、この「合理的配慮」という考え方を、まず押さえておいてください。

 

●「雇用か福祉か」の二分モデルから、「雇用も福祉も」の対角線モデル

 

 就労継続支援事業A型が、障害者総合支援法に基づく現行の障害福祉サービスの中で、唯一、労働法規の適用を受ける事業であることは既に触れたとおりです。

 

 障害者自立支援法施行以前、というよりもCRPD(「障害者権利条約」)以前の、日本の障害者就労支援施策は、福祉の施策と雇用の施策で、スパッと真っ二つに切り分けられていました。「合理的配慮」について易しい解説をしてくださった藤井さんは、これを二元モデル(二分法モデル)と呼び、下図のようにイメージ化しています。

 

 これまで、よく言われたことは、障害のある人が学校を卒業する際、最初にどこの窓口に相談に行ったかで、その後の進路がずっと決まってしまうということです。具体的には、最初にハローワークに相談に行った人は、一般就労。最初に福祉事務所などの福祉の窓口に相談に行った人は、作業所などの福祉的就労。一般就労と福祉的就労の間には、厚い、高い壁があって、一度、福祉的就労に行った人が、一般就労に行くことのできる可能性は殆ど皆無。(実際に、自立支援法以前の授産施設から、一般就労に移行する人の割合は、1%にも満たない状況でした)また、一般就労した人は逆に福祉のサービスを利用しにくいといった状況がありました。(今も、やはり、その状況は続いているように思えますが)

 

 藤井さんは、こうした状況を「二分モデル」と批判したうえで、あるべき施策のあり方として、「対角線モデル」という形を提案されています。「雇用か福祉か」という二者択一を迫る「二分モデル」から、「雇用も福祉も」と、状況に応じてサービスを選択できる「対角線モデル」への転換こそが、あるべき障害者就労支援施策であるという考え方です。

 

 従来の「二分モデル」では、本人の障害が重いか軽いかということが重視される、いわば、働くことが困難な原因を、個人の機能障害に求める(障害の)医学モデル(個人モデル)に基づくものでした。

 これに対して、「対角線モデル」では、働くことが困難となっている原因は、個人の機能障害ではなく、社会や本人を取り巻く環境にあるということを重視した、(障害の)社会モデルに基づくものとなっています。すなわち、障害の重い軽いについては、個人の機能障害ではなく、働く上で障害がどのように影響するかを着目した上で、障害の影響が少ない場合は、雇用施策の割合が大きく福祉施策の必要度は小さいが、影響が大きくなるにつれて、その割合が逆転していくというものになっています。

 さらに、藤井さんは、社会福祉施策は、=CRPDで定義される「合理的配慮」の施策であるといった考え方も示されています。

 

2015062001


 

●就労継続支援事業A型は、「合理的配慮」が標準装備された障害者の就労・雇用の場

 

 就労継続支援A型事業所の担うべき役割、果たすべき役割を考えるときに、藤井さんが示された、この「対角線モデル」は、非常に有効であると思っています。

 

 結論を先に述べてしまうと、就労継続支援A型事業所は、今後、障害のある人が働く上で、もっとも重要なキーワードになる「合理的配慮」が標準装備された「就労の場」「雇用の場」であることをめざすべきではないかと考えます。

 

 あるべき就労支援策を示す対角線モデルの枠組みをなす四角形を1つのA型事業所として考えてみることにします。1つのA型事業所には、障害のある人とない人が共に働いています。労働障害の重い人(=働く上で、本人の機能障害が大きく影響する人)から労働障害の軽い人(=働く上で、本人の機能障害の影響が小さい人)まで、様々な人が事業所で働いています。労働障害の重い人に必要な「合理的配慮」をおこなうことで、今、利用している人よりも、もっと労働障害の重い人(ひいては機能障害の重い人)の受け入れを図っていくこともきっと可能になるはずです。四角形の上辺(四角形の高さ)が、現在の事業所のディーセント・ワークの到達点です。労働障害の重い人には、合理的配慮を手厚くすることで、労働障害の軽い人には、その人に応じた適度な合理的配慮をおこなうことで、目標とするディーセント・ワークに近づけることが可能になります。各事業所がめざすことは、ディーセント・ワークの達成度を高めていくこと、すなわち、上辺をさらに上に引き上げる(高さを高くしていく)ことです。

 「合理的配慮」をおこなうためには、それなりのコストが発生します。しかし、このコストは、合理的配慮が事業所内に浸透し、経験が蓄積されていく中で、やがて軽減化を図っていくことができるものです。また、ディーセント・ワークの達成度が上がることで、障害のある人が納税者になる可能性も広がっていきます。

 

 「合理的配慮」の義務は、民間事業者は現時点では「努力義務」にとどまっています。その理由は、必要な「合理的配慮」をおこなうためには、一定の(初期の段階ではそれなりに多額の)コストが発生するからに他なりません。A型事業者には、報酬というかたちで、公費が注がれています。この公費の正しい使途こそが、「合理的配慮」をおこなうためのコストではないかと思っています。

 

 就労継続支援A型事業所を、「合理的配慮」が努力義務としてではなく「標準装備された」障害者の就労・雇用の場として、明確に位置付け、各事業者が弛まぬ努力で、ディーセント・ワークの達成度を高めていくことをめざすことこそが、「悪しきA型」を失くし、「良きA型モデル」を育てていく道につながるものと考えます。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

就労継続支援A型事業所を取り巻く現状と課題  「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」での問題提起(予定原稿)から

6月25日、26日の2日間、横浜市で、

神奈川県中小企業家同友会の主催による

「障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」が開催されます。

すでに北海道から沖縄まで130名を超える方から

参加のお申し込みを受けています。

私は、1日目に、実行委員会を代表するかたちで、

問題提起をさせていただき、

2日目は、パネリストの一人として、

パネルディスカッションに参加させていただくことになっています。

以下は、1日目の問題提起の予定原稿です。

限られた短い時間なので、

制度の概要等については、細かくは触れていません。

(「A型」と「B型」の違いや、「ディーセント・ワーク」の

詳しい説明については、過去の記事をご覧ください)

また、あくまでも「問題提起」なので、

今後、めざすべき方向性は、

2日間に渡るグループ討議の中で、

参加者全員で考えていくことになります。

 

中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム

◆問題提起:「良きA型モデル」を築くために、 同友会加盟のA型事業所がめざすべき方向性

報告者:天野 貴彦(東京同友会)

 

◇はじめに

 

本日は、お忙しい中、「中小企業家同友会 障害者就労継続支援A型事業者全国フォーラム」に、ご参加をいただき、誠にありがとうございます。

本フォーラムは、A型事業所を経営する同友会会員が増えていること、その一方で、これまで、横のつながりや交流もあまりなく、自主的努力での運営を余儀なくされているという現状を踏まえ、会員相互の経験の交流や意見の交換を積極的におこなうことで、中小企業家同友会としてA型事業所経営にとりくむ「あるべき姿」を明らかにしていくことを目的に開催するものです。

今日、明日の2日間に渡る分科会、パネルディスカッション、グループ討議といったプログラムの中で、交流が深まり、熱のこもった活発な議論が展開されることを期待します。

それでは、これより、主催者を代表しまして、「『良きA型モデル』を築くために、同友会加盟のA型事業所がめざすべき方向性」と題しまして、問題提起をさせていただきます。

 

 

◇A型事業所の飛躍的増加と企業の経営参加

 

先の行政報告で厚労省の鈴木課長補佐より、「障害福祉施策の動向」として、ご報告を受けましたので、就労継続支援A型事業所の細かな法的根拠や制度概要については割愛させていただきます。

 さて、平成1810月に、障害者自立支援法による新体系がスタートしてから8年半、この間、A型事業所を取り巻く現状は大きく変化してきています。

1は、事業所数と利用者数の飛躍的な伸びです。


 事業所数では、平成
19年度の148ヶ所から、平成274月には、2,707ヶ所と18倍に、利用者数では、平成19年度の3,445人から、平成274月には約48,000人と14倍の伸びを示しています。


 事業所数や利用者数では、B型事業所の現状には大きく及びませんが、伸び率だけを見ると、就労系事業所と呼ばれる就労継続支援A型、B型、就労移行支援事業の中で一番となっています。

2は、経営主体の変化です。


 A型事業所の経営主体を社会福祉法人、NPO法人、企業、その他に分けてみると、新体系スタート当初は、社福が一番でしたが、現在では、社福、NPOを押さえて、企業が経営主体のトップになっています。


 中小企業家同友会でも、全国で、おそらく
200300の会員によるA型事業所があるのではないでしょうか。


 A型事業所は、利用者となる障害のある人と雇用契約を結びます。利用者の労働の対価として、地域最低賃金を支給することが原則となるため、就労支援事業を実施する中でその原資となる売上をきちんと上げていくことが重要な経営課題となります。本来は、企業の経営センスと社福やNPOの福祉理念がかみあうことで好循環が期待される制度設計となっています。

 

 

◇「悪しきA型」問題の発生とその実態

 

 A型事業所の数とそこで働く障害のある人が急激に増加し、企業の経営参加が広がる状況の中で、第3の変化として、「悪しきA型」という問題がクローズアップされるようになりました。

 昨年(平成26年)612日、NHKニュース(「ニュース9」)は、全国における給付金の不正受給の問題に絡めて、A型事業の悪用という問題があることを取り上げました。ここでいう「悪しきA型」とは、平成22年(2010年)頃から愛知県で始まったものが悪質なコンサルタント会社によって全国に波及したものであるといわれています。

 「悪しきA型」と呼ばれる事業所では、短時間雇用で、とても収益が上がるとは考えられない簡単で、満足感や達成感の持てない作業(仕事)しかさせなかったり、報酬や助成金の一部から給料を支払ったり(法的規制を免れるため、内部作業の内部委託などで取り繕う手口など)、不十分な職員配置や施設環境で経費をできるだけ切り詰め、金を浮かして儲けようとしたり、助成金(特開金)が切れる時期に、手間のかかる障害者や文句を言う障害者を追い詰め、退職に至らしめるといった様々な問題が発生しています。

 こうした「悪しきA型事業所」に対して、行政(厚労省)は規制を強化する対応策を打ち出しました。平成2410月から短時間利用者減算の制度が実施され、今年(平成27年)10月からは、更に規制が強化されることになっています。

 しかしながら、規制強化という対応策は、制度の設計者自身がその不備や矛盾を認めたことに他ならず、いくら規制を強化しても、本当に「悪しきA型事業者」は、また新たに規制を逃れるための手口を生みだすという「いたちごっこ」になりかねません。

 さらに最悪の場合は、「悪しきA型事業者」が事業そのものを投げ出し、利用者である障害者の働く場を奪ってしまうという事態にもなりかねません。そのため、制度(新体系)がスタートしてから、まもなく10年の節目を迎えるにあたって、抜本的な制度の改正を検討していくことが必要ではないかと考えられます。

 

 

◇「悪しきA型」とは呼ばせない。排除の論理からは、何も生まれない

 

「企業がA型事業の経営に参入したこと」が、「悪しきA型」を生みだした主因であるといった指摘もありますが、これはまったくの的外れであり、私たちはとても承服することはできません。

先程、中小企業家同友会の会員が経営するA型事業所が大きく増えていることに触れましたが、私たちの仲間である会員事業所を見渡してみた時に、「悪しきA型事業所(者)」という言葉は、まったく当てはまりません。

「良い会社をつくろう」「良い経営者になろう」「良い経営環境をつくろう」という同友会の理念のもとに、社会全般で遅々として進まない障害者雇用の問題を解決していくひとつの術として、制度を良心的に活用して、真摯にA型事業所の経営にとりくんでいるというのが実際です。

大企業には、障害者雇用に関して、特例子会社という制度がありますが、中小企業が特例子会社を設立するのには高いハードルがあります。たとえ、中小企業であってもできる、障害者雇用、社会貢献として、誇りを持って、A型事業所の経営にとりくんでいるのです。

「悪しきA型」という悪意に満ちた言葉は、時として、仲間同士にいらぬ軋轢や疑心暗鬼をもたらす危険性も秘めています。各県の同友会の議論の中でも、企業がA型事業所を経営することへの批判的な意見や、「もし、『悪しきA型事業者』が同友会に入会を申請したら、どうずる?」といった不安が出されたことも聞いています。しかし、そうした議論の中で、このような素晴らしい意見があったことを紹介しておきます。

「もし、『悪しきA型事業所』と呼ばれる事業者が、同友会に入会したいと言ってきたら、私たちはその事業者を喜んで迎えよう。私たちが、私たちの力で、その事業者を『悪しき』から『良き』に変えていけばよいのだから」

「悪しきA型」と、他を批判したり、排除することは簡単です。しかし、批判や排除の論理からは何も生まれません。私たちが今、問われていることは、自分たちが何を理想とし、何をどうしていくかということです。

本フォーラムでは、「悪しきA型」を失くし、「良きA型モデル」を築き上げていくために、私たちがどうとりくむべきかについて、みんなで話し合い、考えていきたいと思います。

 

 

◇「良きA型モデル」のキーワードは「ディーセント・ワーク」

 

「悪しきA型」に対抗する「良きA型モデル」とは、果たしてどんなモデルか?

私たちは、それは「障害のある人が、労働者としての権利を保障され、働くことを通して、幸福を実現していくモデル」であると考えます。

「良きA型モデル」を築き上げていくためのキーワードとして、「ディーセント・ワーク」という言葉をここで挙げさせていただきます。

「ディーセント・ワーク」という言葉を、今はじめて耳にされたという方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、「ディーセント・ワーク」という言葉は、まだそれほど社会全体に広く浸透していません。

「ディーセント・ワーク」は、ILO(国際労働機関)が、1999年の第87回総会に提出した理念です。今日、世界中で進んでいる格差と貧困、そして様々な権利侵害に対抗して、21世紀の全世界全労働者のための世界的目標として「すべての労働者にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事・誇りある労働)を」と掲げたものです。

「ディーセント・ワーク」自体は、障害のある人に特化した目標ではなく、すべての労働者を対象とするものですが、とりわけ、「ディーセント・ワーク」とは程遠い状況におかれている障害のある人のために、国連での障害者権利条約の採択を受けて、2007123日の国際障害者デーに、「ディーセント・ワークへの障害者の権利」が発表されています。今日は、詳しい説明をする時間がありませんが、これらはILOや国連のホームページで閲覧することができますから、機会のあるときに、ぜひ、お読みになってください。

また、高知県同友会では、各県にある障害者委員会と同等の組織に対して、「ディーセント・ワーク委員会」という呼称を使われています。非常に先駆的であり、まさに、このフォーラムに相応しいものであると思います。高知県同友会の方は、グループ討論の中で、ぜひ、そのことについても触れていただけますよう、壇上から特にお願いいたします。

私たちが、今後「良きA型モデル」を築き上げ、政策提言していくためには、現在、私たちが実施しているA型事業の現況をこの「ディーセント・ワーク」の視点から客観的に評価していくことが必要であると考えます。

また、評価を実施するためには、基準となる尺度を示す指標づくりが求められます。フォーラム実行委員会では、今回のフォーラム開催に合わせて、「A型事業所のディーセント・ワーク達成度評価表」という指標を試験的に作成しました。まだ不十分な箇所が多々あるとは思いますが、ご意見をいただき、修正・改良を加えたところで、調査活動を実施することができればと考えております。皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 

◇「公益性」と「非営利性」を貫き、連帯と協同を築くための議論を

 

「悪しきA型」問題の本質は、本来、障害福祉サービスに求められる事業の「公益性」と「非営利性」が蔑にされ、障害のある人の働く場を「ディーセント・ワーク」から遠ざけてしまっていることです。

 私たちは、自らが実施しているA型事業の「公益性」と「非営利性」を自ら明らかにする必要があります。A型事業の経営が、中小企業としておこなう社会貢献活動の一環であるという位置付けが明確になされていることが大切であると考えます。

 私たちのA型事業所を「良きA型」とし、国や自治体に対して、更なる制度の改善や拡充を求め、政策提言をおこなっていくためには、連帯と協同が不可欠です。

今年2月には、企業、社福、NPOといった経営主体の種別を超え、互いの英知を集め、情報を共有し、刺激し合い、融合を図ることで、障害のある人の働くよろこびをつくりあげていくことを目的に、全Aネット(NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会)が設立されました。

今日の第3分科会で報告をしてくださる久保寺さんが、全Aネットの代表を務めていらっしゃり、同友会の会員事業所も多数、参画しています。こうした志を一つとする団体との協同を深めていくことが大切です。また、今回のフォーラムを一回限りのもとせず、継続的に開催し、交流と経験を蓄積していくことが重要です。

 「悪しきA型」という言葉をこの世から消し去り、障害のある人のディーセント・ワークを実現する「良きA型」を築き上げていくために、活発な議論が展開されることを強く期待して、問題提起を終えます。ご清聴ありがとうございました。

(以上、予定原稿)

 次回は、2日目のパネルディスカッションンでお話ししようと思っていることをまとめてみようと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

就労継続支援「A型」と「B型」のちがいは?

よくご存じのように、障害福祉サービスの「就労継続支援事業」には、「A型(雇用型)」と「B型(非雇用型)」があり、一般社団法人ディーセントワールドが経営するスワン町田1号店・2号店で実施しているのは、就労継続支援事業A型です。

 

就労継続支援事業の根拠となる法律は、「障害者総合支援法」(平成24年に「障害者自立支援法」から名称変更。正式な名称は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」といいます)という法律ですが、実は、この法律自体には、「A型」と「B型」の違いは記されていません。ただ、「就労継続支援」とあるだけです。

 

実際の法律の条文を見ると、「障害者総合支援法」の第5条の第1項では、次のように、まず「障害福祉サービス」の種類を列挙し、その中の1つに「就労継続支援」があります。

 

5条第1項 この法律において「障害福祉サービス」とは、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、施設入所支援、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援及び共同生活援助をいい、(後略)

 

 第1項で列挙した事業について、第2項以降で、1つずつその内容を説明しています。「就労継続支援」については、第14項に記されています。

 

5条第14項 この法律において「就労継続支援」とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。

 

 というように、どこにも「A型」「B型」の違いは示されていません。

 

 では、一体どこで、「A型」と「B型」の区分がされているのでしょうか?

そのヒントは、条文の中にあります。第14項の最後に書かれている「厚生労働省で定める便宜」の部分です。

 

「A型」と「B型」の区分は、法律を実際に施行するために、行政機関が定めた省令と呼ばれる「命令」=この場合は、厚生労働省令に記されています。

 

 少し脱線しますが、法律と省令の関係について、簡単に説明しておきます。

 

 日本の最高法規は、いうまでもなく、日本国憲法です。その下に国会で定めた「法律」があります。

平成273月現在で、わが国の法律は1935本あります。よく耳にする「六法全書」に収められているのは、憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法の6つの法律。「障害者基本法」や「教育基本法」のように、「基本法」と名前がつく法律は、国の制度・政策に関する理念や基本方針を謳ったもので、44本あります。

 政省令と呼ばれるものは、法律を実際に施行するために、行政機関が定めた「命令」です。内閣が定めるものを「政令」、各省庁の大臣が個別に定めるものを「省令」といいます。

 政省令の下には、各省庁の事務方が決めた細かい解釈ルールを定める「通知」があります。

 

 就労継続支援「A型」と「B型」の違いは、「障害者総合支援法施行規則」(正式名称は、法律名と同じで、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則」といいます)という厚生労働省令によって定められています。

 

 省令の第6条の10に次のように書かれています。

 

○第6条の10  法(前述の「障害者総合支援法」を指します)第5条第14 に規定する厚生労働省令で定める便宜は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める便宜とする。 

  就労継続支援A型 通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して行う雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援 

  就労継続支援B型 通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援 

 

 何やら小難しそうに書かれていますが、波線の部分に注目していただくと、「A型」は「雇用契約に基づく就労が可能である者」、「B型」は「雇用契約に基づく就労が困難である者」とあります。つまり、「A型」と「B型」の違いは、省令に基づく「雇用契約の有無」のただ1点ということになります。

 

 「A型」は、利用者に対して、最低賃金を支給することが原則となっています。「なぜ、A型は最低賃金を支払わなければならないか?」。それは、つまり、「雇用契約」があるからということになります。

 

ここで、また少し脱線してしまいますが、「労働基準法」では、「雇用契約」ではなく「労働契約」という表現が使われています。「民法」では、契約した相手のために労働に従事し、その対価として報酬を受け取る契約を指して「雇用契約」としています。

1947年に「労働基準法」が制定されるまでは、労使間の問題は「民法」に基づき、処理されていました。「民法」は、私人間のことについて定めた法律で、「契約の自由という原理」に基づき、当事者間の契約は自由であり、国は干渉しないとされています。「労働基準法」は、この原理を修正し、労働者を保護することを目的に制定されました。「労働基準法」に規定のないものは「民法」が適用されますが、「労働基準法」と「民法」で結論が異なる問題の場合は、「労働基準法」が優先されるしくみになっています。

「労働基準法」をはじめとする労働関連の法律では、「雇用契約」に労働者保護の制約を加えた契約を指して「労働契約」としています。

就労継続支援A型は、労働法規を適用し、利用者の労働者性を担保することを目的とする事業ですから、本来であれば、省令の文言も「雇用契約に基づく就労」ではなく、「労働契約に基づく就労(労働)」とした方が、すっきりするのではないかと思います。

 

いずれにせよ、A型の「雇用契約」は、「労働契約」と考えられますから、労働法規が適用され、最低賃金を支払わなければならないことになります。

 

障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービス」の中で、唯一、労働法規の適用が規定されているのが、就労継続支援事業A型です。

労働法規が適用されることで、働くことに関して、障害のある人が障害のない人と初めて同じ土俵に立つことができます。

CRPD(国連・障害者権利条約)の第27条 労働及び雇用では、「障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。」とし、さらに「あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること」と定めています。

ここで「あらゆる形態の雇用」と書かれていることが、とても重要に思えます。

「あらゆる形態の雇用」に、たとえば、就労継続支援B型で働く障害者が含まるか否かということについては、様々な意見があります。実際に、自立支援法以前の「作業所」で、低賃金で障害者を「働かせていた」事業者に対して、違法と判断され、改善を求められるという事例もありました。

一般社団法人ディーセントワールドは、就労継続支援A型に特化したかたちで、「障害福祉サービス」事業を経営するために、2年前に既存の社会福祉法人から独立するかたちで設立した法人です。

法人の経営理念の1番目に掲げている目標は、「障害のある人のディーセント・ワークの実現」をめざすことです。

日々、事業経営にとりくみながら、「本当の意味で、障害のある人のディーセント・ワークを実現するためには、就労継続支援A型といった福祉のサービスの枠組みの中で、障害のある人を雇用すること自体、間違っているのではないか」と、実は考えています。

本来は、障害のある人もない人も、働く意欲と能力のある人は、一般の企業等で働けることが理想的です。ただ、現実的には、働く意欲のある障害のある人全てが、自分の希望する職に就くことは難しく、また、折角、職に就いても、周囲の理解や配慮(合理的配慮)が足りず、就労を継続することが困難になってしまうことが多々あります。

そうしたことから、就労継続支援A型は、理想と現実のギャップを埋める役割を担う「中間的」かつ「過渡的」な事業ではないかと考えています。

 

長くなってしまったので、今回はこの辺りで終わりにし、次回は、就労継続支援A型の担うべき役割について、もう少し、掘り下げてみようと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「Decent Work(ディーセント・ワーク)」とは何か?

 一般社団法人ディーセントワールドは、障害者総合支援法に基づく就労継続支援事業(A型)として、スワンカフェ&ベーカリー町田1号店・スワンカフェ&ベーカリー町田2号店を経営しています。

 平成27年度の事業計画では、事業方針として、法人の経営理念及びスローガンに基づいた事業経営をおこなうと記しています。

 法人の経営理念は、Mission(使命)、Vision(目標)、Value(価値観)の3つの分野を、Will(めざすもの)とMust(やるべきこと)の2つの軸から整理したマトリクスの形になっています。

 MissionWillのセルには、「ディーセント・ワークの実現をめざす」「事業を通じて、地域貢献・社会貢献に積極的にとりくむ」とあります。そして、その目標のために今、やるべきこと(Must)として、「就労継続支援A型事業に主体的にとりくみ、『良きA型モデル』をつくりだすとともに、事業経営を安定させること」「良質な仕事を確保し、障害のある人の経済的自立と社会参加を応援すること」と記しています。

 法人のスローガンは、「みんなに、はたらくよろこびを! ~一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人のディーセント・ワークの実現をめざします」となっています。

 今回は、初めて聞いたという方や、あまり聞いたことがないという方も多い「ディーセント・ワーク(Decent Work)」という言葉の意味について触れてみます。

 

Decent Work」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。

Decent Work」という言葉は、1999年の第87ILO(国際労働機関)総会に提出されたファン・ソマビア第9代事務局長(チリ)の報告において、初めて用いられました。ILOの事務局長報告には次のように記されています。

 

 「Decent Work」とは、「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味する。それはまた、すべての人が収入を得るのに十分な仕事があること」

言い換えれば、「Decent Work」とは、「まず仕事があることが基本だが、その仕事は、権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事でなければならない。」

 

 ソマビア事務局長から提案された「Decent Work」の課題は、ILOの歴史的な使命の現代的な表現として受け入れられ、ILOは、「Decent Work」を活動の主目標として位置付け、「Decent Work for All (すべての人にディーセント・ワークを)」の実現をめざし、様々な活動を展開しています。

 

 2012年に就任したガイ・ライダー第10代事務局長(英国)も、21世紀におけるILOの役割として、引き続き、「Decent Work」の推進を掲げています。

 

 このように「Decent Work」の言葉や課題が掲げられた背景には、めざすべき方向性とは真逆の「Decent Work」が欠如した状態にある現実があります。ソマビア事務局長の報告には、その内容が次のように記されています。

 

 「世界中の人々は、失業、不完全就業、質の低い非生産的な仕事、危険な仕事と不安定な所得、権利が認められていない仕事、男女不平等、移民労働者の搾取、発言権の欠如、病気・障害・高齢に対する不十分な保護などにみられるような『Decent Work』の欠如に直面している」

 

 具体的には、

・世界中で働く年齢にある人の100人に6人は完全な失業状態にある。(総数は16千万人)

100人に16人は家族のために一人当たり一日1$の最低貧困ラインさえも稼げていない。

100人に50人(2人に1人)は、一日2$未満で生活している。

・すべての国(先進国にも途上国にも)に働く貧困層(ワーキングプア)が存在する。

5か国中2カ国の割合で結社(労働組合や労働者組織)の自由に深刻な問題がある。

・強制労働や児童労働が蔓延し、世界中では25千万人の子どもが働いている。

・働く人々の中で適切な社会保護(老齢・障害・疾病・医療など)の対象となっているのは20%程度しかない。

・労働災害や職業関連疾病で命を落とす人が13千人いる。

といった状態が挙げられています。

 

 わが国においては、「Decent Work」について、厚生労働省が次のように整理しています。

 

「デォーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」とは、

働く機会があり、持続可能な成型に足る収入が得られること

労働三権(=団結権、団体交渉権、団体行動権)などの働く上での権利が保障され、職場で発言が行いやすく、それが認められること

家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること

公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

 

 世界的にみられる「Decent Work」の欠如した状態は、わが国においても同様にみられます。

具体的には、

・相対的貧困率が16%(2009年)で、6人に1人が貧困状態にある。

(日本の可処分所得の中央値は224万円であり、OECD基準値による貧困線は112万円)

・年収200万円以下が1000万人を超えている。(給与所得者の4人に1人の割合)

・劣悪な労働条件(ブラック企業)、偽装派遣や派遣期間途中での一方的な打ち切りなどの違法行為が蔓延している。

・職を奪われた労働者の究極の4拓が「犯罪・自殺・ホームレス・餓死」と呼ばれ、年間に3万人もの自殺者が出ている。(その80%が労働年齢にある人)

といった状態が挙げられます。

 

 ILOは、「Decent Work」実現のために、上記の1999年の第87ILO総会事務局長報告と2008年の第97回総会において採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」において、次の4つの戦略目標を掲げています。

 

仕事の創出:必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事をつくだすことを支援

社会的保護の拡充:安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備、社会保障の充実

社会対話の促進:職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政労使の話し合いの促進

仕事における権利の保障:不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障・尊重

 

 わが国においては、平成226月に閣議(鳩山内閣)決定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」において、「Decent Work」の言葉が初めて用いられました。

 

 「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」の実現に向けて、「同一価値労働同一賃金」に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引き上げ、ワーク・ライフ・バランスの実現(年次有給休暇の取得推進、労働時間短縮、育児休業等の推進)に取り組む。

 

 ILOが、21世紀の全世界の実現目標として掲げる「Decent Work」は、すべての労働者を対象としたものです。そこには、性別や年齢を問わず、すべての人が含まれます。障害のある人も、障害のない人も、皆、「Decent Work」の対象です。

 

 しかし、障害のある人は、障害のない人と比べて、より「Decent Work」が欠如した状態におかれています。そのため、ILOは、2007123日の国際障害者デーに、「Decent Workへの障害者の権利」を発表しました。

 「Decent Workへの障害者の権利」の前書きには、「20カ国の批准後に発行するCRPD(Convention

on the Rights of Persons with Disabilities /『国連障害者の権利条約』)と既存のILO基準の規定を各国が実施するための情報源として意図されている」と書かれています。わが国が20141月にようやく批准したCRPD(特に第27条の労働及び雇用)には、「Decent Work」という言葉こそないものの、「Decent Work」の考え方が強く反映されています。

 

 CRPDが、障害者に特別な権利を求めるものでないことと同様に、「Decent Workへの障害者の権利」も障害者に特別な「Decent Work」を求めるものではありません。そこに記されていることは、障害のない人と同等な「Decent Work」の実現をめざそうということです。

 

 労働年齢にある障害者の数は、世界中で47千万人います。「Decent Work」の欠如は、先述したように、これら障害のある人々に対して、特別に厳しい打撃を与えています。

 途上国の障害者の82%が貧困線未満で生活を送り、貧困層の1520%を障害者が占めています。

 ほとんどの国で障害者の失業率は、障害のない人々の失業率と比べ、23倍も高くなっています。

 障害者の多くが、訓練を修了しても、働きがいのある人間らしい職を見つけることができず、不満とやる気を失い、差別的な障壁や働く能力に関する誤った思い込みによって気持ちを砕かれ、多くの障害者が仕事を探すことをやめ、障害者給付があればそれに頼り、あるいは家族やコミュニティに支えられながらインフォーマル経済の付加価値の低い仕事で何とか生計を立てているのが現実です。

 

 障害のある人々の厳しい現状は、わが国もまた同様です。わが国の障害者総数は、国民の約6%にあたる744万人で、その内、労働年齢にある人は、365万人です。しかし、雇用契約を結び、働いている障害者は、わずか36.6万人で、これは労働年齢にある障害者の10%に過ぎません。すなわち、300万人以上の障害者が雇用関係になく、貧困状態にあります。障害者団体(きょうされん)が実施した調査では、働く(雇用関係にない福祉的就労の人も含めて)障害者の56%が、障害年金や福祉手当を含めても年収100万円以下で生活しており、年収200万円を超える人は、わずか1%という状況です。

 

 「Decent Work」に関するILOのソマビア事務局長報告や「Decent Workへの障害者の権利」といった文書は、ILOのホームページからダウンロードして読むことができます。どちらも日本語訳されたものがあります。分厚く読み応えのある文書ですが、機会があれば、ぜひ目を通していただきたいと思います。また、「Decent Work」に関する啓蒙ビデオを観ることもできます。

 

 「Decent Work ~より良い世界はここから始まる~」のビデオは、「Decent Work」をイラストでわかりやすく次のように説明しています。

 

・より良い世界では、児童労働はない。強制労働もない。不平等もなく、職場における危険もない。

・より良い世界では、「Decent Work」の機会が、すべての人に開かれる。

・「Decent Work」とは、尊厳ある労働。「Decent Work」は、家族に糧を与える。子どもたちに教育を与える。私たちに声を与える。私たちを差別から守る盾となる。安全と保護をもたらす。より良い生活水準を提供する。尊厳ある引退を可能にする。

 

 「Decent Work」(働きがいのある人間らしい仕事)とは、働いている本人のみならず、本人の家族や子どもたちにとっても良い状態をもたらすものです。また、一時的に良い状態であることを指すのではなく、その状態が継続的に持続されることを指すものです。また、その良い状態は、働いている期間だけではなく、仕事をリタイアした後も続かなければなりません。「Decent Work」の大きな目標は、人々が働くことを通して、あらゆる貧困から脱却し、平和で幸せな人生を築くことです。

 

 私たち一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人の「Decent Work」を実現していくために、今の私たちにできる現実的な手段として、就労継続支援事業A型を選びました。

 次回は、就労継続支援事業A型の事業について、詳しく触れてみようと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年5月 | トップページ | 2015年7月 »