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「Decent Work(ディーセント・ワーク)」とは何か?

 一般社団法人ディーセントワールドは、障害者総合支援法に基づく就労継続支援事業(A型)として、スワンカフェ&ベーカリー町田1号店・スワンカフェ&ベーカリー町田2号店を経営しています。

 平成27年度の事業計画では、事業方針として、法人の経営理念及びスローガンに基づいた事業経営をおこなうと記しています。

 法人の経営理念は、Mission(使命)、Vision(目標)、Value(価値観)の3つの分野を、Will(めざすもの)とMust(やるべきこと)の2つの軸から整理したマトリクスの形になっています。

 MissionWillのセルには、「ディーセント・ワークの実現をめざす」「事業を通じて、地域貢献・社会貢献に積極的にとりくむ」とあります。そして、その目標のために今、やるべきこと(Must)として、「就労継続支援A型事業に主体的にとりくみ、『良きA型モデル』をつくりだすとともに、事業経営を安定させること」「良質な仕事を確保し、障害のある人の経済的自立と社会参加を応援すること」と記しています。

 法人のスローガンは、「みんなに、はたらくよろこびを! ~一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人のディーセント・ワークの実現をめざします」となっています。

 今回は、初めて聞いたという方や、あまり聞いたことがないという方も多い「ディーセント・ワーク(Decent Work)」という言葉の意味について触れてみます。

 

Decent Work」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。

Decent Work」という言葉は、1999年の第87ILO(国際労働機関)総会に提出されたファン・ソマビア第9代事務局長(チリ)の報告において、初めて用いられました。ILOの事務局長報告には次のように記されています。

 

 「Decent Work」とは、「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味する。それはまた、すべての人が収入を得るのに十分な仕事があること」

言い換えれば、「Decent Work」とは、「まず仕事があることが基本だが、その仕事は、権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事でなければならない。」

 

 ソマビア事務局長から提案された「Decent Work」の課題は、ILOの歴史的な使命の現代的な表現として受け入れられ、ILOは、「Decent Work」を活動の主目標として位置付け、「Decent Work for All (すべての人にディーセント・ワークを)」の実現をめざし、様々な活動を展開しています。

 

 2012年に就任したガイ・ライダー第10代事務局長(英国)も、21世紀におけるILOの役割として、引き続き、「Decent Work」の推進を掲げています。

 

 このように「Decent Work」の言葉や課題が掲げられた背景には、めざすべき方向性とは真逆の「Decent Work」が欠如した状態にある現実があります。ソマビア事務局長の報告には、その内容が次のように記されています。

 

 「世界中の人々は、失業、不完全就業、質の低い非生産的な仕事、危険な仕事と不安定な所得、権利が認められていない仕事、男女不平等、移民労働者の搾取、発言権の欠如、病気・障害・高齢に対する不十分な保護などにみられるような『Decent Work』の欠如に直面している」

 

 具体的には、

・世界中で働く年齢にある人の100人に6人は完全な失業状態にある。(総数は16千万人)

100人に16人は家族のために一人当たり一日1$の最低貧困ラインさえも稼げていない。

100人に50人(2人に1人)は、一日2$未満で生活している。

・すべての国(先進国にも途上国にも)に働く貧困層(ワーキングプア)が存在する。

5か国中2カ国の割合で結社(労働組合や労働者組織)の自由に深刻な問題がある。

・強制労働や児童労働が蔓延し、世界中では25千万人の子どもが働いている。

・働く人々の中で適切な社会保護(老齢・障害・疾病・医療など)の対象となっているのは20%程度しかない。

・労働災害や職業関連疾病で命を落とす人が13千人いる。

といった状態が挙げられています。

 

 わが国においては、「Decent Work」について、厚生労働省が次のように整理しています。

 

「デォーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」とは、

働く機会があり、持続可能な成型に足る収入が得られること

労働三権(=団結権、団体交渉権、団体行動権)などの働く上での権利が保障され、職場で発言が行いやすく、それが認められること

家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること

公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

 

 世界的にみられる「Decent Work」の欠如した状態は、わが国においても同様にみられます。

具体的には、

・相対的貧困率が16%(2009年)で、6人に1人が貧困状態にある。

(日本の可処分所得の中央値は224万円であり、OECD基準値による貧困線は112万円)

・年収200万円以下が1000万人を超えている。(給与所得者の4人に1人の割合)

・劣悪な労働条件(ブラック企業)、偽装派遣や派遣期間途中での一方的な打ち切りなどの違法行為が蔓延している。

・職を奪われた労働者の究極の4拓が「犯罪・自殺・ホームレス・餓死」と呼ばれ、年間に3万人もの自殺者が出ている。(その80%が労働年齢にある人)

といった状態が挙げられます。

 

 ILOは、「Decent Work」実現のために、上記の1999年の第87ILO総会事務局長報告と2008年の第97回総会において採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」において、次の4つの戦略目標を掲げています。

 

仕事の創出:必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事をつくだすことを支援

社会的保護の拡充:安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備、社会保障の充実

社会対話の促進:職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政労使の話し合いの促進

仕事における権利の保障:不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障・尊重

 

 わが国においては、平成226月に閣議(鳩山内閣)決定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」において、「Decent Work」の言葉が初めて用いられました。

 

 「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」の実現に向けて、「同一価値労働同一賃金」に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引き上げ、ワーク・ライフ・バランスの実現(年次有給休暇の取得推進、労働時間短縮、育児休業等の推進)に取り組む。

 

 ILOが、21世紀の全世界の実現目標として掲げる「Decent Work」は、すべての労働者を対象としたものです。そこには、性別や年齢を問わず、すべての人が含まれます。障害のある人も、障害のない人も、皆、「Decent Work」の対象です。

 

 しかし、障害のある人は、障害のない人と比べて、より「Decent Work」が欠如した状態におかれています。そのため、ILOは、2007123日の国際障害者デーに、「Decent Workへの障害者の権利」を発表しました。

 「Decent Workへの障害者の権利」の前書きには、「20カ国の批准後に発行するCRPD(Convention

on the Rights of Persons with Disabilities /『国連障害者の権利条約』)と既存のILO基準の規定を各国が実施するための情報源として意図されている」と書かれています。わが国が20141月にようやく批准したCRPD(特に第27条の労働及び雇用)には、「Decent Work」という言葉こそないものの、「Decent Work」の考え方が強く反映されています。

 

 CRPDが、障害者に特別な権利を求めるものでないことと同様に、「Decent Workへの障害者の権利」も障害者に特別な「Decent Work」を求めるものではありません。そこに記されていることは、障害のない人と同等な「Decent Work」の実現をめざそうということです。

 

 労働年齢にある障害者の数は、世界中で47千万人います。「Decent Work」の欠如は、先述したように、これら障害のある人々に対して、特別に厳しい打撃を与えています。

 途上国の障害者の82%が貧困線未満で生活を送り、貧困層の1520%を障害者が占めています。

 ほとんどの国で障害者の失業率は、障害のない人々の失業率と比べ、23倍も高くなっています。

 障害者の多くが、訓練を修了しても、働きがいのある人間らしい職を見つけることができず、不満とやる気を失い、差別的な障壁や働く能力に関する誤った思い込みによって気持ちを砕かれ、多くの障害者が仕事を探すことをやめ、障害者給付があればそれに頼り、あるいは家族やコミュニティに支えられながらインフォーマル経済の付加価値の低い仕事で何とか生計を立てているのが現実です。

 

 障害のある人々の厳しい現状は、わが国もまた同様です。わが国の障害者総数は、国民の約6%にあたる744万人で、その内、労働年齢にある人は、365万人です。しかし、雇用契約を結び、働いている障害者は、わずか36.6万人で、これは労働年齢にある障害者の10%に過ぎません。すなわち、300万人以上の障害者が雇用関係になく、貧困状態にあります。障害者団体(きょうされん)が実施した調査では、働く(雇用関係にない福祉的就労の人も含めて)障害者の56%が、障害年金や福祉手当を含めても年収100万円以下で生活しており、年収200万円を超える人は、わずか1%という状況です。

 

 「Decent Work」に関するILOのソマビア事務局長報告や「Decent Workへの障害者の権利」といった文書は、ILOのホームページからダウンロードして読むことができます。どちらも日本語訳されたものがあります。分厚く読み応えのある文書ですが、機会があれば、ぜひ目を通していただきたいと思います。また、「Decent Work」に関する啓蒙ビデオを観ることもできます。

 

 「Decent Work ~より良い世界はここから始まる~」のビデオは、「Decent Work」をイラストでわかりやすく次のように説明しています。

 

・より良い世界では、児童労働はない。強制労働もない。不平等もなく、職場における危険もない。

・より良い世界では、「Decent Work」の機会が、すべての人に開かれる。

・「Decent Work」とは、尊厳ある労働。「Decent Work」は、家族に糧を与える。子どもたちに教育を与える。私たちに声を与える。私たちを差別から守る盾となる。安全と保護をもたらす。より良い生活水準を提供する。尊厳ある引退を可能にする。

 

 「Decent Work」(働きがいのある人間らしい仕事)とは、働いている本人のみならず、本人の家族や子どもたちにとっても良い状態をもたらすものです。また、一時的に良い状態であることを指すのではなく、その状態が継続的に持続されることを指すものです。また、その良い状態は、働いている期間だけではなく、仕事をリタイアした後も続かなければなりません。「Decent Work」の大きな目標は、人々が働くことを通して、あらゆる貧困から脱却し、平和で幸せな人生を築くことです。

 

 私たち一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人の「Decent Work」を実現していくために、今の私たちにできる現実的な手段として、就労継続支援事業A型を選びました。

 次回は、就労継続支援事業A型の事業について、詳しく触れてみようと思います。

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